2024.05.17 17:30
2024.05.17 17:30
残された時間は、わずか1週間。5月17日公開の映画『ハピネス』が描く物語は、限りある時間を自分らしく精一杯生きたヒロインと、その恋人の奇跡の日々。余命1週間と宣告されながら憧れのロリータファッションに身を包み、大好きな雪夫との恋を駆け抜けた17歳の高校生・由茉を蒔田彩珠が演じている。
『ゴーイング マイ ホーム』からNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』まで、是枝裕和監督の作品に欠かせない存在として鮮烈な印象を残し、演技派と名高い蒔田。その素顔はスクリーンで見せるミステリアスな表情とはまた違う、イタズラっぽい笑顔が似合う等身大の21歳だった。
ロリータファッションはいざ着てみると楽しかった
──今回、蒔田さんが演じたのはロリータファッションに憧れる17歳の高校生です。
由茉は言葉選びが独特で、話し方も可愛らしくて。今までどちらかというとツンケンした感じの役を演じることが多かったので、私にとっては挑戦になる役だなと思いました。ロリータファッションも普段そういう格好をしないので、最初は恥ずかしかったんですよ。でもやっぱり女の子なので、いざ着てみるとウキウキするというか。目立つので、ロケでもいろんな方の視線を感じて。それはそれであまりできない経験だったので、ちょっと楽しかったです(笑)。
──命の終わりを前にしながらも決して悲観しない由茉が、中盤、あるシーンで弱さを見せます。あそこはさすが蒔田さんというお芝居でした。
あそこはもうお母さん役の吉田羊さんのおかげです。特に事前にこのシーンについて二人で話し合うことはなかったんですけど、羊さんが私の横に座って、優しくポンッと背中に手を当ててくださっただけで、由茉が今まで隠し持っていた本音がわーっと溢れ出てきて。私にとっても思い出深い、いいシーンになりました。
──蒔田さんは事前にしっかり準備してお芝居に臨むタイプですか。それともその場で生まれてくるものを大事にするタイプですか。
その場、ですね。初めて本格的にお芝居をしたのが是枝監督の現場(『ゴーイング マイ ホーム』)で。監督は、子役には台本を渡さず、当日に口伝えで台詞を伝えるんですね。それが私のお芝居の原体験なので、台詞はもちろん入れていきますけど、あとのことは現場に行って、監督と話したり、相手役の方との波長を見ながらやっていこうというスタイルになりました。
──このシーンはワンカメラによる長回しでの撮影でした。
そうなんです。しかも一人になってからが結構長くて(笑)。私が集中できるようスタッフさんも最小人数にしてくださったのが、すごくありがたかったですね。私にとっても大事なシーンですが、スタッフのみなさんもあのシーンに対する想いが深くて。丁寧に撮ろうという気持ちが空気感から伝わってきたのも印象的でした。
──このシーンに限らず、今回は長回しが多いですよね。俳優にとって、長回しの撮影というのはいかがですか。
ありがたいですね。最初から最後まで一連でやった方が集中力を切らさずできるので。おっしゃる通り、今回は長回しが多かったので、そこはすごくやりやすかったです。
──ワンカットで、しかもあまりリテイクも重ねずに。
そんなにリテイクはなかったと思います。その分、テストは結構多めでしたね。
──本番に向けて気持ちを高めていくためにやっていることはありますか。
今まで撮ったシーンを思い出すようにしています。こういうことがあったなって思い浮かべていくだけで、自分の中にある由茉の気持ちを表に出しやすくなるんです。さっきお話しした由茉が初めて弱さを見せるシーンも、本番前はそれまでのシーンのことを結構考えていました。明るく振る舞ってきた由茉の姿が浮かぶたびに、逆に誰にも言えなかった孤独が強く感じられて。いい集中で本番に入れたと思います。
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