“稀有な才能たち”が融合した存在感溢れる舞台の見どころは
香取慎吾が”寺山修司の世界”で演じ、歌う!舞台『テラヤマキャバレー』開幕
2024.02.10 15:00
2024.02.10 15:00
支える俳優陣は確かな実力派が勢揃い
それにしても、デヴィッド・ルヴォーのアングラ演劇をはじめとした日本文化、そして寺山修司という存在への解像度の高さにはとにかく驚かされる。ルヴォーの視点を通して舞台上に現れるキャバレーは、寺山が活躍していた昭和のそれではなく、どこかポップでスタイリッシュ。しかし猥雑さと楽しさは確かに存在しているし、夢の中のように自在に時空間を飛び越え、ときに悪夢のような瞬間を立て続けに見せてくれるのは、見事に「寺山修司の世界観」なのだ。実はルヴォーが若い頃、寺山修司率いる天井桟敷のロンドン公演を観に行ったのがルヴォーと日本の現代芸術の出会いだったのだという。そんな縁があり、今作はルヴォーによる「日本の演劇に宛てたラブレター」だとも。
そんなルヴォーの「ラブレター」が具現化できたのは、俳優陣の実力あってこそだろう。自由奔放に舞台上をかき回し強烈な印象を与えた「蚊」の伊礼彼方や、確かな歌唱力で場を魅了し、寺山にまつわる「女性」という重要な役を演じた村川絵梨と福田えり。高い身体性と確かな演技力ででステージングを支えた成河と平間壮一。初めての外部客演ながら、いい意味で異物感あふれるその存在感が「死」という存在に抜群の説得力をもたせた、宝塚歌劇団の凪七瑠海。
そして、今作はなんといっても「香取慎吾という存在」があってこそ成立したのでは? そう思える。会見でもデヴィッド・ルヴォーは香取のことを「他の人にはない恵まれた才能がある、それは自然と観客と一体化してつながることができること」と語ったが、舞台という空間で生で彼と対峙すると、その凄さがよくわかる。オープニング、緞帳の前に現れて客席を見渡しながら『Come Down Moses』を歌い上げるその姿で、一瞬にして軽々と「舞台上と客席」という垣根を飛び越える。ああ、その事象のなんとテラヤマ的なことか! ちなみに劇中で香取が歌った『質問』という楽曲は2月16日より配信も決定しているので、舞台を見た人は聴き比べてみるのもおすすめだ。
香取自身は会見で「稽古中、ルヴォーさんから『君はシャイなのか?』と聞かれたけど、そう聞かれて気がついた。自分はシャイではなく、”必死”なだけなんです、と」と答えたが、確かにこの一見難解で、寺山修司という実在の人物を演じ、かつ高いスキルを要求される作品に挑むのは相当に苦難があっただろう。しかし、彼が演じたからこそ、寺山修司という人の世界観を、リアルタイムでない世代にも届けることができたのは確かだ。それこそが、「国民的スター」という存在なのだな、とも。
『力石徹のテーマ』を聴いて「ああ、力石徹の葬儀の演出って寺山修司だったっけ」と思い返すもよし、数多散りばめられた寺山戯曲やエピソード、モチーフを宝探しのように楽しむもよし(それらを構築した池田の脚本もお見事!)。もちろん、寺山修司を知らない人にも、何かしらの刺さるシーン、言葉は必ず残るはず。おもちゃ箱のような”寺山ワールド”のキャバレー、思うがままに楽しむのがきっと正解なのだ。