5年ぶりに来日果たしたニューヨーク音楽シーンの象徴
INTERPOLのギタリスト・Daniel Kesslerが語る、20年以上不変のマインドと革新的最新作
2024.01.07 17:00
INTERPOL 2023年11月30日神田スクエアホール公演より
2024.01.07 17:00
作曲は仕事でも義務でもない
──スーツ、またはシャツをバンドのユニフォームとされた理由は? デビューからメンバー全員変わらぬスマートなルックスへの拘りや、スタイル維持の秘訣があれば教えてください。
俺たちは単独公演の際は毎回スーツを着るし、俺なんかは普段から毎日スーツを着ているよ。それは、バンドのユニフォームとしてスーツを着るというよりも、順序が逆で、俺たちが普段からこういう服装をして、こういう美意識があったことによって友人関係が生まれ、バンドが結成されたんだよ。インターポールが結成された当時は、こういう格好をしているバンドは他にいなかったからね。俺が、元バンドメンバーのカルロス(・デングラー)と出会ったのも、周りに1960年代のモッズみたいな格好をしている奴らが、俺たちの他に誰もいなかったからなんだ。俺とカルロスは大学で出会ったんだけど、お互いが似たようなファッションだったから、「こいつは俺みたいな格好をしてるな」と興味が湧いたんだ。周りの人たちはみんなバギージーンズを履いていた時代だよ(笑)。これは今の時代でも言えると思うけれど、当時、自分の服装とは自分が興味のある音楽を象徴する一つの手段でもあったんだ。俺とカルロスの場合はそうだった。だからファッションも表現手段の一つだと思う。
でもそれは個人によって違っていて、例えば、ポールは別に毎日スーツを着ているわけじゃないけど、ステージに立つ時は、彼特有のルックスで登場する。クールであり、彼なりの個性がある。だから個人が好きにやっていることなんだけど、バンドとして統一感もあるんだ。ただ、ギャングみたいに「同じ格好をしているから俺たちは繋がっている」みたいな話は特にしなかったね。服のフィット感に関しては、俺は昔からスーツのパンツの裾は短めが好きで、靴下が少し見えるくらいが良いと思っている。当初はそんな風にスーツを着ている奴は俺以外にいなかったから、「つんつるてん」なんて、俺の格好をバカにしたコメントもあったみたいだ(笑)。でも最近では、そういうパンツの履き方もおしゃれになってきている。俺は個人的に、短く履く以外の履き方に耐えられなかったんだ。それは俺個人の好みなんだけどね。
スタイル維持に関しては、体格維持という意味だよね? 俺たちはみんなフィットネスには気をつけていて、特にツアー中は運動したりして体調や体格維持に努めている。運動することは身体に良いけれど、頭(マインド)にもすごく良いからね。俺たちみたいにたくさんツアーをして、移動している者にとっては、定期的に運動することが、コンパスみたいに俺たちを正しい方向に導いてくれると思うんだ。
──インターポールの楽曲はシンプルなアンサンブルながら本当に飽きずに、長く、愛聴し続ける事が出来ます。そんな楽曲を作り続ける上でのこだわり、ポイントなどはあるのでしょうか?
不思議なもので、曲を作ることというのは俺たちにとって自然なことで、無理やりやっている感じが全くしないんだ。それは昔からそうだったし、今でもそう。全てのバンドがそうだとは思わないし、歳を取るに連れて変化していく場合もあると思う。俺たちは曲作りに関して苦労したことはないし、題材やインスピレーションが尽きて曲が作れなくなったこともない。反対に、曲を作りすぎて困っているくらいなんだ。そんな状況を鑑みると、俺たちにはやはり特別なケミストリーがあり、俺たちがバンドであるということにすごく納得するんだ。
セッションでも、俺が曲の一部を他のメンバーに聴かせると、大抵ポールがすぐにそれに反応して、次に、サムがポールの演奏に反応して3人のセッションとなり、フローが生まれる。この曲のどこが最高だとか、どうやって発展していきたいかという対話が生まれる。これは俺たちが結成当時からやってきたことだ。そこには作曲に対する情熱があり、制作に対する真摯な姿勢がある。でも7枚もアルバムを作ってきたバンドなら、もうそういう気持ちはなくなっているかもしれない。「もう疲れた」とか「そんな意欲はない」と思うかもしれない。だが、俺たちは違う。俺たちにとって作曲は頑張ってやることでもないし、仕事でもないし義務でもない。むしろ、音楽を書く機会をもっと与えてもらいたいくらいだよ。いつもツアーをして世界を飛び回っているから、音楽を作る機会があると俺たちは夢中になり、没頭してしまうんだ。すごくいいインスピレーションを受けるよ。
──最新作『The Other Side of Make-Believe』はロックダウン下の制作を余儀なくされたという事もあり、バンド内で初めてデータのやり取りで進められた楽曲も収録されていますが、インターポールの音楽でしか味わえない退廃的なロマンチシズムと同時に、今までで1番温かみを持った作品であったように感じます。グルーヴに内包された体温の温かみが随一で、とても心地よかったです。2022年の作品になりますがどういった思いを込めたんでしょうか?
確かにこのアルバムの楽曲には、感情的な何かに包まれているような印象があると思う。それは、当時の世界情勢の影響もあるし、インターポールは感情的な音楽、つまりフィーリングを表現するバンドだからだと思う。俺が作曲を始める時も、自分が作っているものに対して、心からのつながりを感じる必要がある。音楽面に関しては、インターポールの音楽を進化させたいという思いがあって、最初の作曲段階から、ほぼ初めてピアノを使って作曲をしていったんだ。シングルとなった「Toni」などはピアノが中心となっている曲だし、今までのサウンドとは少し違うものになったと思う。それは違った表現方法をしたいと思ったのと、あとはとにかく前に進むことを考えていたから。
当時は、(コロナの影響で)俺たち3人は、みんな違う国にいた。それはある意味で課題だったけれど、特に難題だったとは思わなくて、アルバム制作の流れが変わるんだなと思っただけだった。個人が自分たちのアイデアを練るという余裕ができたし、それが功を奏したと思う。朝、起きるとポールからメールが届いている。それは、俺がポールに渡してあったデータであり、ポールがそこに何かベースやボーカルなどを加えて、データを送り返してくれたものなんだ。届いたデータを聴いた時は毎回「これはすごくいい!」と思ったし、ドラムが加わった時も「最高だ!」と思った。毎回、曲が良い状態になって戻ってきていたんだ。そんなに上手くいかないケースも、他のバンドではあると思うよ。誰かの手が加わったことによって、自分がイメージしていたものとは、全く違うものが返ってきてしまうとか。でも俺たちの場合はそうでなかった。毎回、良い曲に仕上がっていって、同じマインドで作曲できていた。俺たちは別々の国にいて、同じ空間には一緒にいないけれど、共に前進・進化することができていて、そのケミストリーはデータとして送り合っていたトラックに反映されていたんだ。
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