イラストレーターとしても活躍する新鋭映画監督の想いに迫る
物語に救われてきたからこそ、今は自分の物語を。武田かりんが描く“いつかくるハッピーエンド”
2023.12.14 17:00
2023.12.14 17:00
生きているから届けられる、届けたい人がいる──新星・武田かりん監督のそんな想いが詰まった映画『ブルーを笑えるその日まで』が12月8日よりアップリンク吉祥寺にて2週間限定で公開されている。
不登校や自殺未遂など、閉じ込めていた自分の過去と向き合い完成させた、美しくも切ない“ブルー”の世界。三枝かりん名義でイラストレーターとしても活躍する武田の表現を支えるものは、導かれるように出会った人や芸術作品だった。その人生が語る「今、武田かりんから見える世界」をインタビューで紐解いていく。
ダブル主演した渡邉心結&角心菜のインタビューはこちら
嘘をつかずにハッピーエンドにしたかった
──この作品を通して、“監督”と呼ばれることも増えてきたと思いますが、武田監督と呼ばれることに対してどう感じてますか?
自分は監督なのかな? と思っていて。映画監督になりたいと思って映画を作ったよりは、自分の経験を物語に昇華して、それが誰かの希望になるかもしれないというところから映画を作ることになったので。もともと映画監督志望じゃないぶん違和感はあります。
──では、今日はいろいろなお話を聞きたいので“武田さん”と呼ばせてください。本作『ブルーを笑えるその日まで』は武田さんの実体験がベースとなっている作品ですが、改めてどんな思いを込めた作品か聞かせてもらってもいいですか?
10代のころに不登校や自殺未遂を経験して、それが自分のコンプレックスでした。ずっと誰にも言えない秘密で、今まで隠して大人になったんです。大人になって、「10代の方で亡くなる一番多いが原因が自殺」という記事を読んで、私の経験って全然特別なものじゃなかったんだ、もしかしたら私もそのひとりになってたかもしれないんだ。そう思ったとき居ても立ってもいられない気分になって。自分のコンプレックスを手放して、それを物語にしたら、どこかの誰かの希望になるかもしれないと思い映画を作ることを決めました。ひとりぼっちの女の子が手を繋いで「ブルー=青春」だったり、憂鬱なことだったり、嫌いだった青空とか……そういうものから逃げる映画にしよう、それを肯定する映画にしようと。
──ダブル主演の渡邉心結さんと角心菜さんにもインタビューさせていただいて、ふたりが武田さんの思いを受け取って演じていたのが伝わってきました。アン(渡邉)は武田さんご自身がベースになっていて、アイナ(角)はこんな子がいたらよかったという理想の人物。おふたりには、武田さん自身でも言葉にできないような感情やイメージをどう伝えていったのでしょうか。
言葉にできないけど、言葉にしないといけないから難しくて。渡邉さんと角さんには「アンはこう演じてほしい」、「アイナはこう演じてほしい」というよりは、私がずっと言えなかったこと──当時はこういうことがあって、こういう気持ちになったことがあって、だからこのシーンとセリフを入れたんですよ、とか。自分の気持ちをあんまり隠さずありのまま話そうと思って話してました。
──現場で一緒に涙を流したこともあったと伺いました。
そうですね。“9月1日に教室からアンがアイナを連れ出す”というシーンで。アイナは明るい性格で一見アンとは正反対に見えるんですけど、ふたりには似たところがあって、アンとアイナはどちらもあのころの自分だと思っていて。劇中ではアイナの泣き顔を一度見せないようにしていたんですけど、ここはアイナの感情が溢れた表情をちゃんと撮らなきゃと思っていました。顔を上げたアイナの表情がすごい大事だったので、5分だけ時間もらって、角さんとふたりだけで外に出て話をして。そのときも私自身の経験を話したんですが、角さんが涙を流しながら聞いてくれて、私もたぶん涙を流しながら話してたんですよね。ふたりで泣いてて。そのときの角さんの涙がすごくキレイで「今だ!」と思い、「現場戻ります! 本番です」ってすぐ撮り始めたんですよ。角さんにはすごく申し訳なかったんですけど(笑)。
──あのシーンがそうだったんですね。素晴らしかったです。
私もあのシーンが大好きです。実際にたまたま去年の9月1日に撮影していて。
──初めて撮影したアンとアイナのシーンは夏休みのひまわり畑のシーンとお聞きしました。
ひまわりの開花時期に合わせて行ったので、早く撮らないと枯れちゃう!って先に撮りに行きました。仲が深まったあとのアンとアイナのシーンをいきなり撮ることに何も不安はなかったんです。実は私たち3人の出会いは2年前の夏で、そのときはパイロット版の撮影だったんですけど、すでにふたりは結構仲良くなってて。長編映画の撮影開始まで1年空いてたけど、その空白の期間もふたりで連絡取り合って電話で練習をしてくれてたみたいで。本当に仲良しでいてくれたので、まったく心配なく撮り始めることができました。川でのシーンもふたりが何度も練習してくれてて。
──川のシーンの前と後とでの渡邉さんの表情の変化、素晴らしかったです。個人的に本作で特にグッときたポイントはダブル主演であるところで。普通なら渡邉さん単独主演の物語と言ってもおかしくないというか。
嘘をつきたくないってのがすごくあったんです。けど、ハッピーエンドにしたかった。どうしてもアンの物語にしてハッピーエンドにすることができなくて。例えば「アンが学校に笑顔で通えるようになりました」や「クラスメイトと仲直りしました」とかだと嘘になってしまうから。じゃあ、アンのハッピーエンドっていつ来るの?って考えたら何十年以上も先の大人になったときで……。10年後というふうに描くのはちょっと嫌で。アイナというキャラクターも主人公であることで、違う形での未来、必ずいつかハッピーエンドがやってくるよ、という終わり方にすることができて。
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