2023.11.20 17:00
2023.11.20 17:00
潤と真奈美の関係は新しい“愛情”の形?
──それぞれの役柄に関しては、どういう風に監督と話をしていたんですか?
矢野 僕が演じた潤に関しては、性別的にもなかなか難しい部分があったので、断定できないというか、僕の中での絶対的なものがなかったんですよ。役柄的にもストーリー的にも、答えがない中でずっと芝居をしているという感じでしたね。でも危うさみたいな部分は潤のいいところだし、物語の中でも重要なキャラクターだと思ったので、そこを大事に演じていました。
錫木 真奈美はとにかく、物事に対して真っ直ぐな人なんですよ。それでいて、出会った物事を軽やかに吸収して自分のものにして、また走っていく……そんなことがこの映画の中でも淡々と行われているんですよね。表明的には飄々としているけれど、心のなかには興味を持ったものに対する貪欲さも強くある。そういう部分は、自分自身ともリンクするなと思いましたね。
──この作品は潤と真奈美で「聖也を取り合う」関係性に見えながら、原作を読むと真奈美の潤への感情については、真奈美のモノローグではっきり「恋愛」に近いものだと書かれていますよね。映画ではそこがあえて言語化されていないのが印象的でした。
矢野 それ、よく言われるんですけど……実は僕、原作を読んでいないんですよ。
錫木 そうなんですか!?
矢野 監督に「読まなくていい」って言われて。一番最初に確認したんですけど。
──監督としては「読まないでほしい」という意味だったんですかね?
矢野 そうだと思ったんですけど。でも今思えば、松本さんは意外と勢いでそういうことを言うタイプかもしれない(笑)。うりちゃんは読んでるんだよね?
錫木 そうです、もうオーディションの時点で作品の名前は出ていたので、買って読んでましたね。でも今聞いて思ったのは、監督は俳優によってすごくアプローチを分けていたような気がするんです。だから矢野さんにはそういう風に言ったのかもしれないですね。
──真奈美と潤の関係性は、どういうものだと思ってお2人は演じていましたか?
矢野 潤にとって真奈美は、たぶん「新しい車」みたいな感覚だったんじゃないかな。新しい車を買ったときって、やっぱり新鮮さもあるし、車の中も新車の匂いとかするじゃないですか。でもだんだん乗っていくと、自分の匂いになっていって新しさがなくなり、何なら次の車が欲しくなったりもする。そういう感じだったのかな、と思ってます。
錫木 私は、この『車軸』という映画の中での真奈美と潤さんの関係って、恋愛とか愛情ではない、新しい何か……言ってみるなら「新しい愛情」のようなものがある気がするんですよ、どう2人の関係性が発展していくとか、そういうことは問題でない、そんな愛情のようなもの。自分自身を愛することにも近いかもしれない。
──2人の間の絆はありつつも、だからこそ渇望や孤独感も浮かび上がってきますよね。
矢野 2人とも似てる部分があるけど、「やっぱり違うんだ」と潤の方は思ってしまった。多分、真奈美よりも潤のほうがそういうことを思いやすい人だし、一度思ってしまうとどんどん入り込んで考えてしまう。真奈美はまだ楽観的というか、「自分を育てて変えてくれる人がいたらいいな」くらいで見ている気がして。
錫木 2人が違うとしたら多分、物事が起こったときの動き方の部分なんでしょうね。潤さんは繊細で敏感に反応してしまうし、真奈美はそれを受け入れるのが早い感じがします。
──錫木さんは、矢野さんを見ていて潤に近い部分を感じたりはしましたか?
錫木 私は矢野さんは「繊細の塊」だと思ってましたよ。潤さんだな、って。
矢野 いやでも、潤という役を演じてるときと、通常の矢野聖人は違いますから(笑)。
錫木 基本は違うかもしれないけど、でも矢野さんってすごくいろんなものに気づくんですよね。アンテナが凄いというか、自分の視野以上のものに対して敏感というか……だからそういう部分が共通するな、と思ってました。
──映画の中ですごく音楽が印象的ですよね。即興演奏だと思うのですが、映像に対してとても効果的に使われているなと。音楽が乗った状態を観てどう思われましたか?
矢野 オープニングの音楽とかすごく好きでしたね。すごく作品に会う音楽を落とし込んでくださって、音楽が付くことで厚みが加わるなというのは実感しました。
錫木 私、今回担当してくださった小野川浩幸さんの音楽がもともとすごく好きだったんですよ。だからとにかく楽しみにしていて、実際に完成したときは「音楽の力ってすごいな」と思いました。矢野さんの言うように、さらに意味を含ませたり、膨らませたり……そういうものを感じましたね。
次のページ