2023.11.20 17:00
2023.11.20 17:00
11月17日(金)に公開された映画『車軸』は、セクシャルマイノリティの視点を織り込んだ短歌を数多く発表した歌人・小説家の小佐野彈の同名小説を原作に、コロナ禍の新宿、歌舞伎町で生きるゲイ、ホスト、大学生の3人の若者の姿をリアルに描き出した作品。特に物語の主軸となるのは資産家であるゲイの潤と、地方出身の大学生である真奈美との関係性だ。そこで潤を演じた矢野聖人と、オーディションを経て真奈美役に抜擢された錫木うりの2人に、この『車軸』という作品へのアプローチを語ってもらった。
“初めて”づくしだった撮影前プロセス
──お2人が今作に参加された経緯をお伺いできますか?
錫木 私はオーディションを受けさせていただいたんですけど、そのやり方が、これまでに経験したオーディションとは全く違ったんですよ。台本を渡されず、簡単な質疑応答をした後に、課題が一応用意してあるんですけど……その課題が、松本准平監督のオリジナルのメソッドみたいなものといいますか、空の椅子が用意してあって、そこに私が演じる真奈美が座っていると仮定して、その子に「錫木うり」として話しかける……というものだったんです。いわば自己紹介ですね。
──それはかなり変わった形のオーディションですね。
錫木 そうなんです、私自身はそんな形のオーディションを受けるのも初めてでしたし、これは今まで経験したのとは違うタイプの作品だなとその時点で思ったんですけど。でもお芝居を見ないということは自分自身を見てもらっているのかな、という気分になったので、今までにないワクワク感はありましたね。審査されている感覚があまりなかったというか……ただ、私がその場で色々さらけ出しすぎまして(笑)「これは落ちたかも」と思ってました。
──「さらけ出しすぎた」とは?
錫木 ストップがかかるまで延々と自己紹介を喋り続けるんですけど、なかなかストップがかからなくて……どういう環境で生きてきたかとか、どういうことを思って生活をしているか、昔あった嫌なことや嫌な経験、そういうことを赤裸々に話しすぎて、「引かれたらどうしよう」って終わった後に思ってました(笑)。
矢野 でも監督からは、すぐに真奈美はうりちゃんだと思ったって聞きましたよ。圧倒的だったって。
錫木 そうなんですか? 私は聞いてないです。
矢野 本当に言ってました(笑)。
──矢野さんは今作はどういう経緯で出演を決意されたんですか?
矢野 監督とは『最後の命』(2014年公開)という作品で以前にご一緒してるんですけど、そこからは結構時間が経っているんですよ。それが一昨年の夏に、新宿のとある喫茶店に呼ばれまして、まだちゃんとした形にはなっていないこの『車軸』の台本を渡されて。「聖人、久しぶりに映画やろうよ」って言われて。「矢野聖人という俳優を、色んな人と業界にちょっと知らしめようよ」と。それで一度台本を読んでみますね、と持って返ったんですけど……読んですぐに出演を決めました。
──決め手は何だったんでしょう?
矢野 まず、僕が演じたことがないタイプの役だったというのが1つ。それと、「人生の中でこういう作品があと何回演じられるか」というのを思ったんですよ。それだけ挑戦することが多い役柄ですし、自分が成長するためにもやりたいな、と思いました。
──撮り方もかなり、他の映画と比べると特殊だったみたいですね。事前の準備を入念にして、本番はほぼ一回で……という形だったと伺いました。
矢野 撮影をしていたのは去年の1月とかなんですが、その前月に僕とうりちゃんと、(ホストの聖也役の)水石亜飛夢くんと監督とでまず集まったんですね。そこから撮影に入るまでの1ヵ月くらい、監督の指示でいろいろなメソッドをやっていったんですけど……された指示が、例えば「(映画の)セリフは一切覚えないでくれ」と。でも一応、「本読み」はあったんですよ。でもこれも一切感情を込めないで読んでくれと言われて、本当に棒読み。
──映画撮影のためのワークショップとしては、なかなかない形ですよね。
錫木 そうですね。
矢野 他にもいろいろやりましたよ。動物になったり、火になったり、水になったり……催眠術をかけてもらったこともあった。
錫木 そうだった、催眠術もやりましたね!
矢野 セリフを覚えちゃいけないという不安と戦いながら、そうやって催眠術かけられたり、動物になったり、相撲を取ったり……。
錫木 相撲も取りましたね(笑)。でも私は割と楽観的なタイプなので、結構楽しんでましたよ。
矢野 うりちゃんのそういうところ、いいなと思うんですよ。僕にはないところだから。僕はもう、頭で考えてしまうタイプなので。
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