特別対談「日比谷音楽祭が目指す音楽の新しい循環」 #3
この時代に生きる“送り手”として、亀田誠治×秦 基博が考える多様さがもたらす効果と希望
2023.10.23 17:30
2023.10.23 17:30
多種多様な聴かれ方はネガティブじゃない
──作り手の方ももちろんリスナーの方も含めた新しい音楽の循環の形について秦さんのイメージはどんなものですか?
秦 音楽のそれこそ作り方も奏で方もすごく多種多様だから、絶対これじゃなきゃいけないみたいなことってないじゃないですか。特に最近って本当にそうだと思うんですけど。でもその中で体感することとか、亀田さん始めスーパーミュージシャンが集まって音出したらこんなことが起きるとか、音楽を体験することの価値は変わらずずっとあるものだと思うんですね。その一方で、もちろんパソコンの中とかネットの中で音楽が組み立てられることも今の時代はたくさんあって、それがこうつながって循環していく感じはいいなと思いますね。生でのマジックみたいなものもあるし、絶対この時代のこの瞬間でしか生まれなかっただろうなって音楽もきっとあるし。それが両方あるっていうのがすごくいいなと思いますね。
亀田 今、秦さんの話を聞いてて気がついたんですけど、多種多様っていうキーワードが出たところで、例えば音楽が聴かれるメディアっていうのも多種多様なわけで、これって時にネガティブな発言も出たりしますけど、僕は全くそんなことはないと思っていて。受け取り方がそれぞれの世代や、それぞれの環境によって受け取りやすい形っていうものができてきて、シーンがより成熟してきている感じがします。で、それはやっぱり僕たち作品をつくる、届ける者にとってみると、間口が広がるっていうことはすごく嬉しいというか。僕はできるだけ多くの人が楽しんでくれたり感動してくれたらいいなって思うんですね。
秦 はい。
亀田 かといってマーケティングやリサーチに基づいて作品作りをしているわけではないんです。作品が世の中に出て行くときは特に僕は自分が表に立つっていうことではなくて、例えば秦さんのサポートであったり、共同制作みたいな形で関わることが多いので、やっぱりたくさんの人に聴いてもらい、届くといいな、もしくは長く愛されるといいなっていうふうにいつも思っていて。なので短期的な山というか、点で生まれるビッグブレイクみたいなことよりも、楽曲がずっと愛されて欲しいんですね。秦さんの15周年はコロナ禍の中でギター一本のコンサートにたくさんの人が横浜アリーナに集まっていて、感動したんです。多様な聴かれ方をして、多様な受け取られ方をすることが成熟してきているなっていうのを実感しましたね。
──受け取る人の多様さを肌で感じる機会ですね。
亀田 あとは日比谷音楽祭が目指している、音楽を届ける循環はうまく行き始めているところがあるけれども、ちょっとなんていうか、音楽にかけるお金というか、ちょっと生々しい話ですけど、そこら辺のあり方がもっとこう……僕が観て感銘を受けた、アメリカのセントラルパークで見てきたフリーコンサートが寄付金とスポンサーのお金だけでひと夏コンサートが開かれているとか、そういう新しい音楽のシステムが日本でも生まれて行くといいなって思います。
──これまでと違う循環という意味で何か気づかれることはありますか?
亀田 今回、秦さんのステージでは弾かなかったんですけど、弓木(英梨乃)さんが木村カエラさんと桜井和寿さんのステージでギターを弾いてくれて。弓木さんのことは、秦さんの横浜スタジアムでやったライブで初めて知ったんですけど、すごくシュアなプレイをしつつも、音楽愛というか、ギター弾くのが好きで好きでしょうがないという感じで楽しそうに演奏されていたんですね。日比谷音楽祭もミュージシャン同士が知り合えるようなきっかけになるといいなと思っていて。で、やっぱり秦さんのように素晴らしいアーティストの周りにいるミュージシャンの方は、これまた素晴らしいプレイをするんです。そういう人が自分と一緒に楽曲を作ったアーティストの仲間と一緒にやっているっていうのを聞くと、すごく嬉しくて。そういう循環っていうのもありますよね。
秦 やっぱり、どんどん繋がっていきますよね。僕なんか特に一人なんで、それだけたくさんの方の力を借りないとアンサンブルとかできないじゃないですか。そうなった時にそこに起こるマジックが音楽の魅力の一つでもあると思うので、どういう人と人が集まって音を出すってことだったり、あとこれすごく不思議なんですけど、その人たちの組み合わせによってちょっと音が変わってくるんですよね。
亀田 そう!
秦 それぞれがすごい素晴らしいミュージシャンの皆さんなんですけど、ちょっと何かが変わるだけで、また違う音になったりするのがすごく不思議だし。ライブなんて本当に一回ずつ全部違うということになってくる、あの有機的なものっていうのかな、それはいつも感動する部分ですよね。
亀田 生物としての細胞活性化じゃないけど(笑)、音楽は波動で空気の振動で伝わっていきますけど、本当に空気のような欠かせないものになってるんじゃないのかなっていうふうに思いますね。
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