宮崎大祐監督の新ノワール映画『#ミトヤマネ』が公開中
玉城ティナ×稲葉友が語る表現者としての喜び、柔軟性を持った“ピース”であることのこだわり
2023.09.07 17:00
2023.09.07 17:00
作品が良くなるためなら何でもやる(稲葉)
──稲葉さんは本作について「ぜひとも映画館まで足をお運びください」とコメントされていました。映画やドラマ、舞台、雑誌など様々な場面で活躍するお二人ですが、映画もしくは映画館の魅力はどのようなものだと感じていますか?
稲葉 映画って、ちゃんと人の人生に関わる気がしていて。いろいろな作品があって、それらから何をくらってもいいんですけど、“人の人生に関わるもの”だと信じられる媒体だと思っています。だから参加するのもとても楽しいし、形になってずっと残っていく良さも感じています。見る側としては、今は生きていない人の作品も見られるということに対して単純にすごいなと思いますし、僕は映画館にこもって見るのが最高だと思っていて。やっぱり映画館で見るために作られているので、映画館で見てほしい。それこそ『#ミトヤマネ』も映画館で浴びてほしいタイプの映画ですね。
玉城 今って、家で映画を1本見ようと思っても、どうしても邪魔が入るじゃないですか。携帯が鳴ったり、宅配便が来たり。でも映画館では、静かないい環境で見られる。出演する側としてももちろんですが、私は映画を見るために2時間くらい時間を捧げるという行為が好きなので、映画や映画館はなくならないでほしいなと思いますね。
──ではそんなお二人が、俳優として作品を作る上で大切にしていることは何なのでしょうか?
稲葉 「作品が良くなるように」ということ以外にはないかもしれないです。僕の作品ではなく、あくまでも監督の作品だし、俳優はあくまでも1つのセクションで、作品が良くなるためだったら何でもやる。あまり自我はないかもしれないですね。それがある種の自我なんでしょうけど。みんなで同じ方向を向けているのが最高の現場だなと思っています。
玉城 年齢を重ねてきて特に思うことですが、監督のパズルの中の1ピースというのは当然のこととして、その中で誰に対しても対等でいるということは大切にしています。年齢関係なく、子役さんに対しても、監督に対してもそう。思うことがあったら言っていったほうが後々楽だったりもしますし。疑問点があれば最初に潰しておくとか、疑問点があってもそのまま進むしかないんだったらそこで腹をくくるとか。その場でのベストを尽くすしかない仕事だと思うので。
──表現者として、この時代に届けていきたいものなどはありますか?
玉城 私はあまりないかもしれない。私たちはわかりやすく画面に出ているだけという認識で、監督やプロデューサーがいての私たちというのは忘れずにいたいなと思っています。でも同時に、最初に目に入るのも私たちなので、そこの責任感は持ち続けながら。これからもいろいろな役をやっていくと思うので、柔軟性も持っていたいですね。特にこういう映画を届けたいとか、こういうメッセージを伝えたいというものもないので、好きなように見てもらえればと思っています。何よりも自分が関わっている作品を見てもらえることが一番うれしいです。
稲葉 僕もまさにそんな感じで、僕が稲葉友として発信したいことはあまりない。でも僕をどこかで知ってくれて、それをきっかけで見てくれた作品にいい影響を受けるみたいな連鎖が起きると「やっていてよかったな」みたいな気持ちにはなれるので、そういう橋渡しができたり、「稲葉が出ている作品だったら」みたいな判断基準になれたらと思っています。みんなにとってではなくても、その人にとって、“あなた”にとってそういう俳優になれるといいなと思っています。
──最後に、玉城さんは小説好き、稲葉さんは音楽好きと、お二人とも好きなカルチャーを公言していらっしゃいますので、最後に、最近特に感銘を受けたものや気に入ったものを教えてください。
玉城 最近読んだのは市川沙央さんの小説『ハンチバック』。第128回文學界新人賞を受賞されていて、芥川賞も受賞された作品です。重度障害者の市川さんが、メタフィクション的に書かれた本なのですが、勝手に私たちがタブーにしていることをさらけ出していて。私もこういうふうに自分をさらけ出していかないといけないんだなと思いましたし、市川さんの文章の感じや言葉の選び方もすごく好きで、次の作品も読みたいなと思いました。
稲葉 僕は音楽で。OZROSAURUS「Players’ Player feat. KREVA」です。OZROSAURUSのラッパー・MACCHOとKREVAさんは、いわゆる犬猿の仲。昔からお互いにディスりあっていた歴史があって、一緒に曲をやるなんてことはまずないだろうと誰もが思っていた。そんな2組が、それぞれレジェンドになって、ここにきて、一緒に曲を出した。そんな2組が曲を出すなんて、衝撃も大きいし、曲のハードルもめちゃくちゃ高いんですよ。しかもトラックを作っているのは今のシーンを代表するBACHLOGIC。「これでダサかったらやばいぞ」とみんなが期待していたんですが、聴いたらめちゃくちゃカッコ良くて。同じことを繰り返すんじゃなくて、常に進化し続けて、リスナーの想像を超えてくることをやり続けてくれるって、ファンとして見ていてすごくカッコいいし、人間としても尊敬できる。それは自分の理想像にも繋がります。まぁ、この経緯を知らなくてもカッコいい曲なんですけどね。それもさっきの自分の話にも繋がると思っていて。稲葉友として前に出るのではなくて、良い作品を作るだけでいいんですよ。