今年もフル満喫した庄村聡泰が最も印象的だったアクトは?
フジロック総括1万5000字レポート(後編) 誇るべき日本を感じた2日目夜〜最終日
2023.09.07 18:00
FOO FIGHTERS(Photo : Taio Konishi)
2023.09.07 18:00
さて、ここからは最終日の私的メインアクトが続く。まずはRED MARQUEEのJOHN CARROLL KIRBYだ。鍵盤奏者でありプロデューサーとしても名を馳せる彼であるが、自身のリーダープロジェクトではあくまで脇役的な位置に徹し、フルートをフロントに据えた編成でリゾート風味の心地よいインストを聴かせてくれる。といってもそれは決して前時代的なものではなく、またシティ・ポップ的なものともかけ離れた、ループ感があり、踊れて、でもそこには微かに瞑想的な、あるいは神秘性とも取れるような要素が一貫して孕んでいるという活字にすると難しい、実に不思議な配合の音楽性。とりわけ筆者には時折初期YMOの影響を強く感じさせる点が非常にツボであったのだ。なんて思っていたら中盤で「戦場のメリークリスマス」から「ライディーン」のカバー(というよりはほぼ完コピ)を披露するというガチファンっぷりを見せつけ、日本語で”高橋さんと坂本さんの曲は永遠に生き続けます”と語る。影響下どころの話ではなくただのガチファンであったということが嬉しくて、なんだか泣けてしまった。そして後半では自身がプロデュースを務め、夜にPYRAMID GARDENで共演するEDDIE CHACONが登場。正直当日までLIZZOかEDDIE CHACONかを決められずにいた筆者はこれでLIZZOを観る決心がついた。3日間で1番の俺得が立て続けに起こり、すっかり大ファンになってしまう。
そんなハートウォーミングな気分を地獄へと叩き落としてくれたのがもう1つの私的メインアクト、BLACK MIDI。これに関してはもう、レポートを放棄する。マジでイカれていた。人間はあそこまで野放図な演奏ができるものなのか。それは初めてTHE MARS VOLTAを観た衝撃に近く、ロックのフォーマットでありながらやってることはフリージャズにも近く、無理矢理名付けるのであればロックンロールならぬ”カオスンロール”といったところか。次の来日の機会には絶対に行った方がいい。以上(異常)だ。
ここもまた迷った。本来であれば事前記事でも推していたG.LOVE & DONAVON FRANKENREITERを観るつもりだったのだが、Lewis Capaldiのキャンセルに伴い出演が決定したBAD HOPを観るため、GREEN STAGEを選択することとした。解散することが発表されていることに加え今回は初のバンド編成とのことで、この千載一遇の機会を逃すわけには行かなかったのである。自らの出身地である川崎を舞台としたリアリズムに基づくラップが強力なバンドサウンドに乗せて放たれていく。「Back Stage」や「CALLIN’」が元来のBPMをさらに重たく引きずるような金子ノブアキ(Dr)、KenKen(Ba)、masasucks(Gt)、伊澤一葉(Key)の重戦車級アンサンブルによって、凄まじくヘヴィなミクスチャー・ロックへと変貌。重低音のうねりとドスを利かせたラップの波状攻撃がGREEN STAGEの喉元へと掴み掛かり、ぐわんぐわんと揺さぶっているかのようであった。
こうなることは最初から分かりきっていたものの、FKJ前のRED MARQUEEは大混雑。早々と入場規制が敷かれたとのこと。キーボード、ギター、サックスと周囲をぐるりと楽器が囲むというセットにふらりとたった1人で現れたFKJ。簡素なリズムループから始まり、そちらにフレーズを足していくというスタイルであり、それはライブでありながら制作の風景を生で体験するという一種のメタフィクション的な構造を持つステージでもあった。途中機材トラブルによりあえなく中断せざるを得ない一幕もあったが、フジロッカーたちは彼がたおやかで美しいメロディの数々を丁寧に紡いでいく様を固唾を飲んで見つめたり、時には身体を揺らしてみたりと、思い思いに楽しんでいる。最終日も終盤となった頃合いにプレイされる「Ylang Ylang」が無性にセンチメンタルに響く。早くまた来てくれよなと思いつつ、LIZZOに備えるためステージを後にした。
次のページ