前夜祭から乗り込んだ庄村聡泰が観たライブを凝縮して解説
フジロック総括1万5000字レポート(前編) 体がいくつあっても足りなかった初日〜2日目夜
2023.09.06 17:30
THE STROKES(Photo : Taio Konishi)
2023.09.06 17:30
お次は再びRED MARQUEEでYVES TUMOR。IDLESとは打って変わっての実にけばけばしい出立ち。サポートメンバーを加えてのバンド編成であったが、モロにハードロックなリードギタリストを筆頭にそれぞれもご本人に負けず劣らずの個性豊かな面々。パフォーマンスが熱を帯びていくに比例するが如く徐々にYVES TUMORは衣装を脱ぎ去っていき、最終形態は黒のビキニパンツ一丁。この姿でメンバーに絡みながら妖艶な声を響かせるもんだから、まだ太陽が燦々と輝く時間帯だってのにRED MARQUEEは早くもキケンな遊びへと誘われる事態となった。
しかしまあ一つしかない我が身をこんなにも恨めしく、また義務教育での必修科目に分身の術が含まれていないことをこんなにも憎らしく思うことはない。その後のGREEN STAGEでは矢沢永吉。苗場食堂では苗場音楽突撃隊。FIELD OF HEAVENではCORY HENRY。その直後にはWHITE STAGEでTohji。RED MARQUEEでeastern youth。そしてその直後にはGREEN STAGEでDANIEL CAESAR。FIELD OF HEAVENでYO LA TENGOである。
もちろん、一つしかない我が身を恨んでも分身の術が使えないことを憎んでもどうしようもない。というよりは筆者が好む音楽の幅が広すぎる事が最大の問題なのだ。好きすぎるが故の悩み。それだけの層の厚さを取り揃えたラインナップということなのだろう。改めて感服敬服の思いである。
上記アクトについては友人の伝聞も交えたレポートとなってしまうことをご容赦いただきたいのであるが、矢沢永吉は「チャイナタウン」でGREEN STAGEをヨコハマ・トワイライト・タイムへと染め上げてから「止まらないHa~Ha」でタオルの雨を降らせ、同時刻のCORY HENRYは凄腕のサポートメンバーと共にハモンド・オルガンの調べでソウル、ファンクの真髄を見せつけ、今やカリスマとしての風格さえ漂わせるTohjiはなんとWHITE STAGE中央に位置するPAブースから群集を割っての登場というモーゼの十戒を思わせるニクい演出で沸かせに沸かせ、eastern youthの轟音から放たれる強烈なエネルギーはRED MARQUEEのみならずオアシスまでをも揺らし、その後の夕暮れ時を迎えんとするGREEN STAGEではDANIEL CAESARが珠玉の歌声でフジロッカーたちを陶酔させ、一方のYO LA TENGOはミニマルな編成でありながら来年で結成40周年を迎える鉄壁のアンサンブルでもってまた別の陶酔感溢れるステージを見せてくれた。
いよいよ初日のヘッドライナーが近付く時間帯。そのちょうど1時間前のRED MARQUEEではとんでもない歓声が上がっていた。9年振りの新作を携えたYEAH YEAH YEAHSが13年ぶりの来日、フジロックへは17年ぶりの再臨となる。その瞬間を目に焼き付けんと多数のオーディエンスが詰めかけ、入場規制が敷かれる事態となったからであった。今度はフルセットで観たいので、是非とも単独公演をば。
筆者がTHE STROKESを観るのは20年ぶり。当時19歳の筆者は2003年のサマソニで彼らを観ている。2ndアルバム『Room on Fire』発表直前のライブであったため、「Reptilia」が新曲として演奏されていたことやJulian Casablancas(Vo)が着ていたノースリーブのゴーストバスターズTシャツのことはいまだによく覚えている。開催が叶わなかったFUJI ROCK FESTIVAL ‘20を経てのフルスペック開催となった今年、堂々のヘッドライナーとしての帰還である。
ライブは1stアルバムの「The Modern Age」からのスタート。Fabrizio Moretti(Dr)とNikolai Fraitur(Ba)の柔らかく大きなリズムが気だるげなJulianの歌声を包み、Nick Valensi(Gt)とAlbert Hammond, Jr.(Gt)のシャープなツインギターが絡み合う。実に美しいロックバンドの比率、在り方である。初のグラミーに輝いた『The New Abnormal』の曲群を随所に挟みつつ中盤では「Welcome to Japan」が演奏されるという嬉しいサプライズもあり、本編最後は「Reptilia」、そしてアンコールラストは再びファーストから「Last Nite」。20年ぶりのTHE STROKES、サイコーでした。
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