2023.09.01 17:00
2023.09.01 17:00
福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた夏都愛未監督作品『緑のざわめき』。松井玲奈が演じる主人公・響子の異母妹であり、彼女をストーキングしている菜穂子役を演じたのは、ドラマや映画、バラエティ番組など近年俳優としての活躍が目覚ましい岡崎紗絵。モデルとしても長らく活動、二つの顔を持つ彼女にとって、今作は新たな“挑戦”の場でもあったようだ。
「今までにない役」だからこそ、任されたという嬉しさがあった
──この『緑のざわめき』のオファーが来たとき、どう思われましたか?
まず脚本を読ませていただいたときに感じたのは「難しいな」と。というのも、私が今までに演じたことがないタイプの役だったんですね。これまでは割と、役柄の感情がわかりやすかったり、掴みやすい人を演じさせていただくことが多かったので……初めての挑戦だな、と思いました。自分でも未知の領域というか、この作品に挑戦することで自分がどうなるかはあまりわかってなかったところはありましたけど、そういう挑戦ができて、今までとは違うものを感じることができる……その嬉しさは感じていましたね。
──確かに、今まで岡崎さんが演じられてきた役柄を振り返ると、今作の菜穂子というのはあまりないタイプの役柄ですよね。
そうなんです。だから「挑戦だな」とは思いましたけど、同時に「こういう役をいただけた」ということが本当に嬉しかったですね。多分、菜穂子のような役柄のイメージはこれまでの私にはまだなかったと思うんです。それでも私にこの役をと言っていただけたことで、「任された」感じを勝手に持ってしまい(笑)。
──監督とはどういうお話を現場でされましたか?
菜穂子という役は、私一人の考えでは理解が追いつかないところもあったり……そこは監督にお話を聞いたり、「どういう自分でいたらいいか」を悩みながら演じていました。例えば菜穂子という人間を見ると、「お姉さんをストーキングしている」という点はすごく大きいと思うんですけど、かといって世間一般的な「ストーカー」とも違う。それだけに集中しているわけでもなく、ちゃんと菜穂子自身のコミュニティがあり、友達といることもできるし、大学のお手伝いもしている。自分から外に出て行くことをしている人なんですよね。監督からは、一つのイメージに固まらない、どこか一貫性がないというか、いろいろな面がある人間に見せたい、というお話をいただいて。それもあり、現場では自分の中で菜穂子というキャラクターの持つさまざまな部分を、少しずつ調整しながら演じていった感じです。
──確かに、そう考えると菜穂子の「ストーキング行為もしていながら、一方で友達ともうまくできている」というアンバランスさは、逆にリアルに感じますね。
ああいう人、いると思うんですよ。だから掴みどころがないのは確かなんですけど、私はとても人間味がある役だと思っていて。人それぞれ、家族と居るときと友達と居るときでは全然顔が違うと思うし、それが菜穂子の場合は幅が広く、一面ではストーキングという行為になってしまう。その一面が衝撃的だから特殊に見えるかもしれないけど、いろいろな顔を持つという面では「そういうことってあるよね」と思いました。
──割と感情が内に籠もっていたり、爆発させるとしても負の感情だったりするのが多い役ですよね。精神的につらくなったりすることはなかったですか?
それはなかったですね。常にいろいろと考えていて、つらくなる暇もなかったです(笑)。もしかしたら、本当につらくなれたら自分の中で階段を一つ登ったのかもしれないですけど、撮影中はずっと考えてる段階だったんですよ。でも、そんな役と向き合うことで考えたこと、新たに感じることはとてもたくさんあったので、本当にこの役をいただいて良かったなと思っています。
──具体的にはどんなことを感じられましたか?
一番感じたのは「言葉の力」ってすごいな、ということですね。例えば相手に対して「さっきより言い方が強くなったな」と感じると、自分の芝居もまた変化してそれまでとは違うシーンになっていく。それがすごく面白かったんですよ。そういうやり取りの中で感じるものというのが、この作品ではすごく多かったと思います。現場の雰囲気自体は和やかではあったんですけど、今回の作品は一つひとつのシーンに対して「明確な答えが一つある」というわけではなく、登場人物それぞれがいろんな思いを抱えて演じているから、いい意味で複雑になるんですよね。その方向性が合っているかが不安になったら監督とお話をして、ときに松井玲奈さんや共演者の方と一緒にディスカッションしたり。そういう時間がたくさんあったので、「自分たちで作品を創っている」というのが実感できたし、作品に対する熱量というものが感じられた現場でした。
──響子と菜穂子の関係性もそうですけど、この映画では「あえて説明されないこと」というのが多い印象でした。その分、俳優の演技が背負う部分もたくさんあったのでは?
確かにそうですね。この『緑のざわめき』は、多分観てくださった皆さんに感想を伺ったらそれぞれ答えることも違えば、「そもそも答えってあるのかな?」ぐらいに思う、そのくらい感じ方が人によって違う作品だと思うんです。だからこそ、演じる上では「空気感」がとても大事だったなと。さっきお話した「言葉の力」……セリフの一つひとつが影響する「空気感」というのがとても重要だったな、と今となっては思います。
──「菜穂子の抱える“響子への思い”」というのは、岡崎さんの中ではどういうものだと思って演じられていたのですか?
「自分の理想がそこにある」という感じだったのかな、と。でももちろん、響子の全ては見られてないし、響子の持つ悩みとかいろいろな本当の核心、内面は当然見えていない。でもやっぱり「憧れの念」が強すぎて……それはもちろん、菜穂子の生まれてきた境遇の複雑さもあるんですけど、ストーカーという行為に走ってしまった。菜穂子から見たら、響子ってものすごく輝いて見えて神秘的で、そういうことが全部羨ましいし、だからこそ認めて欲しかったり……きっとそういういろんな複雑な思いがあったんだろうな、と思っていました。
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