2023.08.16 18:00
2023.08.16 18:00
今年5月にEP『春めく私小説』でメジャーデビューを果たした4人組、クジラ夜の街。「ファンタジーを作るバンド」を標榜する彼らは、強固な世界観をもつ楽曲とそれを全力で表現しきるライブを武器に、今まさにシーンを席巻しようとしている。
そんな彼らがその次の一歩となる配信シングルを7月にリリース。「マスカレードパレード」はこれまでの彼らの楽曲とはひと味違う、心に突き刺さるような鋭さと生々しさをもち、日々を生きる我々の価値観に疑問符を突きつけるメッセージをもった1曲だ。なぜ今こんな曲が生まれてきたのか。そこにはメジャーデビューを経てソングライター宮崎一晴に訪れたある明確な変化があった。Bezzy初登場インタビューでは、その変化を礎にガンガン曲を作り、その先へと突き進んでいる現在進行形の4人に迫った。
──5月にメジャーデビューをして、ツアーではLIQUIDROOMも即完。かなり勢いに乗って夏を迎えていますが、みなさんはどんなことを感じながらこの数ヵ月を走ってきましたか?
山本薫(以下、山本) 僕は今回、準備期間も含めてツアーを回ってくる中でバンドの曲と自分のギターのことがより好きになったなと実感してます。声出しが解禁されてお客さんの熱量が直に感じられるようになってきて。そういうのに起因して、自分たちのライブがすごく好きになったなという感じがしています。
秦愛翔(以下、秦) 自分はドラムを始めたときからそれを仕事にするというのは夢だったので、それを叶えることができたという安心感と、ここまで来たんだったら──せっかくいいところまで来たので、これを半ばで終わらせることはできないと思っているんで、せっかくだったら日本で一番有名になりたいなと思っています。ここまで来ちゃったなら後戻りはできないなと思っていますね。
佐伯隼也(以下、佐伯) 5月にメジャーデビューをして、その後6月にメジャー1発目のワンマンツアーをして。今までは思っていなかったプロ意識というか、もうちゃんとプロミュージシャンなんだなという意識を持つようになりました。ライブでミスできないな、とか。
──なるほど。宮崎さんはどうですか?
宮崎一晴(以下、宮崎) メジャーデビューで明らかにステージが変わった感覚はあります。それはライブハウスのキャパだったり、自分たちの作る楽曲だったり、あと周りの環境だったり、いろいろなところでひしひしと感じるんですけど、そうやってネクストステージに上がったことによって一番変化があるなと思ったのは自分の視野かなと思っていまして。
──視野?
宮崎 はい。今まで見えてこなかったものが途端に見えるようになってきたんですよね。それはプラスな方向の、たとえばファンの方の反応だったり、自分たちの楽曲の良さだったりっていう部分だけじゃなくて、目指さないといけないものだったり、いずれ超えないといけない存在だったりもそうで。そういったものがより見えるようになったっていう点が自分としては大きいかなと思っていますね。
──そうやっていろいろなものが見えるようになったことは曲作りやライブにどんなふうに作用していると思いますか?
宮崎 そうですね。自分たちの作る楽曲っていうのを……今まではずっと、楽曲を作るうえで「心」で作ってたんですけど、もっともっと頭を使っていかないといけないなって。心でやっていくだけでは敵わない相手や太刀打ちできない難関みたいなものも見えるようになったので、ここはちょっと考えないといけないなと。ゲームで今まではAボタン連打で勝ててたけど、コンボのコマンドをちゃんと入れないといけないなっていう感覚に似てて(笑)。ちゃんと考えないといけない壁っていうのが出てきたなって思って、それがすごく楽しいですね。
──やることは変わらないけど、戦い方が変わってきたというか。
宮崎 そうですね。闇雲にやるだけじゃダメっていうのを感じてます。
──メジャーデビュー作『春めく私小説』については今改めてどんな手応えを感じていますか?
山本 今まで出してきた作品に比べて幅は広がったなって感じていて。幅広い層に刺さるような作品になったというのはライブでのお客さんの反応を見ていて感じます。
秦 年々、バンドを長くやっていく中で思うのは、物販とか立ってると「秦さんのドラム見てドラム始めました」とか言ってくれる人が多くなってきているんですよ。それがすごく嬉しくて。僕は本当に自分たちの曲を聴き返すんですけど、ドラムフレーズに関しては「こんなフレーズ叩く人、日本で絶対いないな」って思うんです。最近の曲を聴いてると、誰もやってない領域に来てるんじゃないかってすごく思ってて、それが物販で声をかけてもらうとか、ちゃんと成果になって表れてるなって感じがして。それはもっと突き詰めていきたいなって思ってます。
佐伯 このEPは1曲1曲大切に作って皆さんにお届けしたので、それがちゃんと届いたのが嬉しくて。で、ワンマンツアーでこの収録曲をやるじゃないですか。僕は「BOOGIE MAN RADIO」がめちゃくちゃ好きなんですけど、あの曲はベースラインがすごく難しいので、「プロ意識」とか言いつつも「難しいな」と思いながら弾いてました(笑)。
宮崎 なんか、昨今の流行というか、インスタントで軽い口当たりの楽曲とは真逆だなとは思うんですよね。やっぱり音楽というものは消費物ではないという考えが自分の中にはあって、楽曲がそのときそのときで流れていってしまうのはあり方として正しくないと思っているんです。この『春めく私小説』という作品も、今のチャートみたいなものを捉えるようなものではないのかもしれないけど、自分たちの誠意を込めて作った楽曲だなっていうのは感じていて、だからこそ嘘のない楽曲になっているなというのはすごく思っています。何かに迎合するような楽曲ではないなって。
──うん。
宮崎 やっぱりアーティストはお客さんの需要に合わせてしまってはいけないと思うんです。自分たちの作り出した価値が誰かに共鳴する、それが順序としては正しいと思っているので、そういった意味ではこの『春めく私小説』は誠心誠意が感じられるようなものになっているのかなって思います。
次のページ