本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第12回 吉澤嘉代子
吉澤嘉代子が迎える10周年、詩で紡ぐ縁と物語
2023.07.31 17:30
2023.07.31 17:30
誰かに伝えたいという気持ちが大事(本間)
本間 最近はストレートな作品が多くて、あんまり考えなくても、そこまで国語力がなくても理解できるものも増えましたよね。
吉澤 みんな忙しいからパッと聴いてパッと理解できる曲がいいのかもしれませんね。
本間 みんなTikTokを見てるから。
吉澤 そうですね、15秒とかですぐ情報を得られますから。
本間 昔のCMみたいですよね。あんまり商品に関係ない歌とかもありましたし。昔は情報を得られるのがテレビとラジオしかなかったので。
吉澤 今は細分化されて、自分が欲しい情報だけ得られますもんね。“みんなが知ってる”というのが少なくなってますよね。
本間 そう、みんなが知ってる作品が年に一度出ればいいほうなんじゃないですかね。100万枚、200万枚売れてますっていうグループの曲を100万人が知ってるかと言ったらそうでもないし。CDを聴くプレイヤーやスピーカーを持っていない人もいて、いつからこうなったのかな……。あと、我々はミックスするときものすごい細かい部分まで気をつけるじゃないですか。吉澤さんはミックスするときに気をつけることあります?
吉澤 歌の聴こえ方を一番気にしてしまいます。リスナーは車の中で聴いたりとか、iPhoneでそのまま聴いたりするじゃないですか。ミックスはいいオーディオで聴いてやるんですけど、どこまで伝わるのかな?ってのは気になりますね。
本間 電波に乗っけた段階ですでに音は変わっちゃいますからね。ミックスのときはスマホに送って聴いたりします?
吉澤 その場ではラジカセなんですけど、おうち帰ってからスマホで聴いて、大丈夫なのかな?って思います。イヤホンによっても全然違いますし、正解がわかんないですね。
本間 そう、わかんないんですよ。だから自分が信じるエンジニアと自分が信じる感覚でやるしかないですよね。60年代のバンドもスタジオでミックスされた音がそのまま街中で流れていたかって言ったら、絶対そんなことないですし。いつの時代も再生環境は全然違うから、自分の物差しでやっていくしかないのかなって、最終的には思います。今回の最新作「氷菓子」を作るにあたってイメージされたことは?
吉澤 映画『アイスクリームフィーバー』の主題歌としてオーダーいただきました。監督が元々アートディレクターで、今回が初監督なんです。すごく映画が好きな方で、デビューからずっと私のミュージックビデオやジャケット、アートワークを手掛けていただいてて。正式なオファーをいただく前から、原作となる川上未映子さんの短編小説「アイスクリーム熱」を何回も何回も読んで。数ページの物語なので、どうやって100分ほどの尺で映画を作るんだろうって、ずっと想像しながら待ってました。ようやく監督の思いが実現したので、いざ書くぞ!となったときは、監督へプレゼントしたいという気持ちで書きました。
本間 誰かに伝えたい、誰かに聴いてほしいって気持ちは大事ですよね。サウンドは今までの感じと違うなって思ったんですけど、なぜあのような形に?
吉澤 あれは監督からリファレンスで映画『恋する惑星』のテーマソング「夢中人」のような疾走感のある曲にしたいって言われて。編曲の野村陽一郎さんとお話しして作っていきました。
本間 イメージがあると作りやすくもあるし、それを越えたいっていう思いも出てきますよね。
吉澤 そうですね。本間さんはこの人にあてて作ろうとか、アレンジしようとかあります?
本間 ありますね。例えば女の子なら、この子が次こういうふうに輝くように。男性なら、この人はこういったファンに支持されるようにとか。ターゲットを考えるんですよ。
吉澤 ファンの方へ向けてのプレゼントなんですね。
本間 もちろんアーティストに向けて書くこともありますけど、それよりもそのアーティストを通じて、彼らが曲を発表したときにファンの人にどう映るのかを考えます。
吉澤 わあ、すごい、視野が広い! プロデューサー目線なんですね。。
本間 あとライブには必ず行って、お客さんの様子を見てます。自分の役割としては、プロデューサーとしてアーティストが今後どういうふうになっていくのか、どういう道筋を作ればいいのかを考えることが多いので。
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