2023.07.04 18:00
ミクロなハッピーを拾っていきたい
──「杮落し」とかを聴いていると本当にそういう感じがするんですよね。確かに暗いところから出発はしてるけど、でもそれをそこに打ちひしがれてるかっていうと別にそういうことでもないし、〈人生はまだこんなもんじゃないと手近にある全て抱きかかえよ〉って、なんか前向いてるぞみたいな終わり方だし。
小林 結構こういう終わり方しがちで、僕。「目下II」とかもほぼ同じ終わり方をしてるんですよね。〈見ているようで見ていないこの眼を許さないが潰さない〉っていう。こういう意識があるんでしょうね。頭でっかちなんで、「考えてるから許してくれ」って、何かに対して思ってるところがありますね。
──でも「目下II」の〈許さないが潰さない〉って、つまりその怒りや恐れみたいなものが持続していくことに耐えるというか、それを受け入れるというか、そういうことじゃないですか。
小林 そう、「耐え」ですよね。でも結局ポジティブ側の人間ではあるんで。なんだろう。長男だからかわからないですけど、自分の意見って最終通らないだろうっていう意識はあるんですよ。僕、いとことか含めて下に8人いるんですけど、だから一番上って意見が基本通らないんで。そこに対するペシミズムみたいなのはありつつ、でもなんか希望的観測がずっとあるというか「なんとかなるっしょ精神」はずっとあるんで。なんもうまくいかないだろうけど、絶対なんとかなるっていう意識がありますね。
──その精神性があるから、ある時期お金が入って来なくてもくぐり抜けてこれたっていう。
小林 結果論としてなんか説得力が生まれちゃってますけど、そんなはずでもなかったんですよ、僕的には(笑)。でも僕の最終的な目標というか夢として、「宝くじを買わずに当てたい」っていうのがあるんで。まっしぐらですよね、今。どうにかして、なんとか宝くじ買わずに当てたいなって小学生のときからずっと思ってて。陰キャの目立ちたがり屋だったんで、当時別に音楽をやってたわけでも、何かを作ってるわけでもなかったんですけど、すごい人間になれるって信じて疑わなかったですから。
──それは自信とかとも違うわけですよね。
小林 そうですね。なんか病気……(笑)。
──病気というか、その傾向?が増強されている感じもしますよね。
小林 そうですね。まあでも小学生の時が一番尖ってたんで、人生で。どんどん丸くなっていくことによって、よりよい人間になっていきたいっていう気持ちはありますね。
──そこに向かっている感じもするんですか?
小林 なんか箇所箇所ですよね。僕は継続ができないので。日課が作れないんですよ。だから目についたミクロなハッピーなことを拾っていきたいっていう。あの日のケータリングで出たお弁当のほうれん草がうまかったっていうことが1回あると、僕、全然翌日ぐらいまで美味しかったなと思ってるんですよ(笑)。そうやって幸福をいつまでも引きずれるんで、僕は。だからほんと、中学生時代とかの、もう5、6年ぐらい連絡取ってない友達にも全然当時のテンションで電話かけれるんで、僕。この間本当にやりました。「明日遊ばない?」って言って。
──それ、向こうはどういう温度感で来るんですか。
小林 あの、「仕事」っていう(笑)。「そうだよね、普通仕事だよね。ごめんごめん、おやすみ、また遊ぼうよ」って言って切りましたけど、同じ強度で僕はずっと友達だと思ってます。
──逆に、たとえば不幸とか不運に対してはどういう態度なんですか?
小林 僕、全然落ち込まないんですよ。ピンポイントでその瞬間めっちゃ落ち込むとかはあるんですけど。悪く言うと全然反省してないんですけど、そんな落ち込んでてもしゃあないなっていうのもあるし、これも幸福の総量ですよね。落ち込んでる時間でどんどんマイナスがかさんでいくんで、一旦マイナスをストップして忘れて、そのマイナスが少ないタイミングでもう1回噛み砕くみたいなことが多いですね。
──なるほど。この『象形に裁つ』っていうアルバムタイトルもそうですけど、あらゆるものに形を与えていくわけじゃないですか。あるいは名前を与えていく。それは歌詞を書くっていうこともそういうことなんだと思うし、メロディ作るっていうこともそういうことだと思うんですけど、そうすることによってちゃんと幸せだったりだとか不幸だったりだとかを切り分けていくというか。それで「総量こっちの方が多いじゃん」って自分で理解する、みたいな。
小林 まあ、そんな数値化はしていないですけどね(笑)。
──そりゃそうですけど、抽象的な意味ではそういうことを曲を通してやってる人なんだろうなって思います。
小林 そうですね。ログとしての意味合いも強いので、日記みたいなところもあるんです。一時期歌詞というか、曲のタイトルに「日々」とか「恵日」とか、「日」っていう字をずっとつけてた時期もあったんで、それもこう、1日単位でトリミングして記録してる感じなんですよね。