2023.07.04 18:00
根底にある意識は前作と一緒
──今回は「象形」について考えていた?
小林 どっちかというと「裁つ」だなと思って考えてました。それで頭につける言葉はどうしようかなっていうのでいろいろやってました。ちょうどアルバムタイトルを考えたぐらいの時期にやってた個展のタイトルも「掬い取る振る舞い」っていうものだったんですけど、あれも僕の中では意味合いは変わっていなくて。あれもったいなかったな。あれがこっちでもよかった(笑)。だから同じことを別の言い方でずっとしてるんですけど、そういう、ハマっていることのログっていう感じです。
──「花も咲かない束の間に」に裁ち鋏云々っていう歌詞が出てきますけど、それもつながっている?
小林 ああ、全然考えてませんでしたね。「花も咲かない〜」とかだいぶ前、この中で一番古い曲なんで。後から言われて思いましたね、「被ってるな」って。あの曲の裁ち鋏っていうのは「裁ち」というより「鋏」をモチーフとして使っているんで、たぶんそのときはあまり考えていなかったような気もしますね。
──『象形に裁つ』って僕なりに噛み砕くと「何かに形を与える」ということだと思うんです。それって小林さんがずっと続けている「表現する」っていうことともすごく近しいですよね。
小林 そうですね。
──だから、ある意味で小林さんはずっとそういうことをやってきているというタイトルでもあるのかなと。
小林 そうですね。『光を投げていた』とかも根底にある意識とか意味的には僕の中では完全に一緒なんで。なんかに対してのアプローチのことをずっと考えてますね。
──「小林私」っていう存在自体もある意味で象形に裁たれているわけじゃないですか。そういう意味では自分自身のことも歌っているのかな、と思えるような曲もたくさんあったんですけど。「四角」とか。
小林 「四角」は「曲作ろう」という意識で部屋見渡して作ったりしましたね。これを作ろうと思ったきっかけは結構明確にあって、「俺の部屋死んでるな」って思ったんですよ。
──どういうこと?
小林 無機物しかなくて死んでるなって。四角いものばっかりだ、みたいな。生き物が1つもないなと思って、そこで豆苗を買って育てたりしたんですけど(笑)。抗おうと思ったんですよね。よくない、この部屋はと。
──それ、急に思ったんですか?
小林 急に思いましたね。なんだろう、普通に暇なときに家にいて、部屋をうろうろ見てて「ちょっとキモすぎるな、死にすぎてるな」と思って。これは人としてよくないなと思ったんです。植物とか育てないとよくないかもなって。
──なるほどね。今も育ててるんですか?
小林 今は、そうですね、どんどん死んでいってますね(笑)。その時期に買った植物が今どんどん死んでいってます。結構水を勘であげるんで。
──(笑)。でもだから部屋の中に小さな四角、無機物がいっぱいある。それはたとえば漫画だったりDVDだったりパソコンだったりするわけですけど、それはそれが心地いいからそうなってたわけじゃないですか。
小林 そうですね。僕は形の中ではスクエアが好きといえば好きなんで、求めてた部分はありつつも、危機感は必要だよなっていう気持ちでしたね。
──大げさに言うと、そこで価値観が変換したというか。
小林 そう……。
──でもまあ、その後枯らしちゃってるわけだから変換し切ったわけではないのか。
小林 そうですね。どんどん死んでいって、うちに来さえしなければ生きられたかもしれない植物たちが、死にかけなのか、生きかけなのかわからないですけど、今ギリギリの状態ですね。なんとか持ちこたえてほしいんですけど。
──「杮落し」はどうですか?
小林 「杮落し」は結構トップクラスに覚えていない。覚えてるので言うと、MAISONdesの「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」のイントロのコード進行かっこいいからパクろうから始まって、そのへんで作っていた曲が結構ギターで細かいことをしているのが多かったんで、久々に原点回避というか、そんなに小難しくないギターにしようみたいな意識だけあって、あとはかなり勢いで書きました。でも1行目に書いてることとかはずっと言ってることだなというか、手癖って言っちゃ手癖です。「四角」とかも同じようなこと言ってるんで。
──〈手を伸ばせば暮らしに届く住み処に居続ける危うさ〉っていうのはまさに「四角」でも歌っていることですよね。でも、その危うさって、常に感じていたらその場所にはいないと思うんですよ。
小林 いや、いるんですよ、人は。これはもう怠慢ですよね。だから、これはどれぐらい自分が惰性で生きてるかっていう指標でもありますよね。僕は「よくないな」って思いながらそのまま生きているときが結構あるんで、そういう3年間だったみたいなところもありますけど(笑)。そういうところがあるんで、「考えてるなー」って思うっていう。考えてないよりはマシか、ぐらいで生きてますね。
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