注目作である理由を3つのポイントで解説
360度舞台で体感できる、かつてない歌舞伎!『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』開幕
2023.03.04 21:00
2023.03.04 21:00
②360度舞台の利点を活かしたスピーディな演出
「世界で2番目の360度回転する円形劇場」として2017年に開館したIHIステージアラウンド東京。この「客席自体が360度回転する」という特殊な舞台機構の最大のメリットは、大掛かりな舞台転換でもスピーディに行うことができ、従来の演劇では不可能だったシームレスな場面転換を可能にしたところだろう。
この機構と「FF」という題材の相性の良さは、この日のフォトコールで公開されていた尾上松也演じる宿敵・シーモアとの戦いのシーンでも十二分に実感できた。パーティーの戦いの進行とともに客席が動き、場面が変わっていく様子はまるでゲームにおけるバトル進行のよう! ゲームという題材と劇場の相性の良さを実感できた場面だった。
また、菊之助とともに今作の演出を務める金谷かほりはミュージカルなどの演出も手掛けるが、もともとB’zなど有名アーティストの大規模ライブやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどのテーマパークのショーを手掛けたキャリアを持ち、大きな会場でのダイナミックな演出に定評がある人物。その大きさと特殊性から演出の困難さも漏れ聞くステージアラウンドという会場だが、彼女の手腕が十二分に発揮される場所であることは間違いない。
③歌舞伎ならでは」の表現と、題材の相性の良さ
近年『ワンピース』や『NARUTO』、『風の谷のナウシカ』といったアニメ・マンガ作品が続々と「歌舞伎化」されていることはご存知の方も多いのでは? そういった現代のエンターテインメント作品でも「歌舞伎」として成立できるのが歌舞伎の面白さ。
会見で尾上松也も「僕が歌舞伎を大好きな理由は、どんな題材でも歌舞伎として昇華して成立させてしまうエネルギー。みなさんが『歌舞伎だな』と思うような要素は存分に凝縮して詰め込んでいるので、古典芸能にあまり触れたことがない方にもぜひ足を運んでほしい」と語ったが、今作もしっかりと「歌舞伎ならではの魅力・面白さ」が詰め込まれている。たとえば前述のシーモアのバトルシーン、シーモアがティーダらと対峙したときに衣装がその場でパッと変わるのだが、これは「ぶっ返り」と言われる歌舞伎独特の手法。主に悪役が正体を現すときなどに使われるため、歌舞伎をよく知っている人ならより楽しめる瞬間だ。
また『ファイナルファンタジーX』のストーリーでも大きなキーとなる「異界送り」は、召喚士と元召喚士が執り行うことができる「死者の魂を異界へ送り届けるための儀式」。先日2月1日にユウナがこの「異界送り」を行う場面のスペシャル映像が公開されたところ、SNS上で大きな反響を呼んだ。今回、フォトコールでもその「異界送り」のシーンが公開されたが、ステージアラウンドのダイナミックな機構と相まって予想以上の場面へと仕上がっている。
ユウナ役の中村米吉は、2022年に再演されたいわゆる「ナウシカ歌舞伎」(七月大歌舞伎第三部『風の谷のナウシカ』)で初演では菊之助が演じたナウシカ役に抜擢され、好評を博した今注目の若手歌舞伎俳優。この異界送りのシーンはユウナが音楽に合わせて舞う「FFX」屈指の人気場面だが、歌舞伎俳優ならではの卓越した「舞」の技術が見事にこの「異界送り」を具現化している。これも「歌舞伎だからこそできた表現」の1つだろう。そのユウナの可憐さも必見!
実はもともと2020年で閉館が決まっていたものの、閉館時期が延長されていたIHIステージアラウンド東京。しかし今回の「FF歌舞伎」が本当に“ファイナル”となる。つまり東京で、この360度劇場でこの作品を体感できるのは本当にこれが最後のチャンスなのだ。劇場こそ普段の場所でなくとも、作品にちなんだオリジナルのカフェメニューや特製お弁当を販売するなど、歌舞伎ならではの「ハレの空間」をたくさんお客様に提供したい……という創り手たちの思いも伝わってくる今作。ぜひ生でそのステージと空間を楽しみ、エネルギーを受け取ろうではないか。