ヒップホップで社会を生き抜く! 第12回
Run-DMCとエアロスミスの「Walk This Way」 最も偉大なコラボ曲が実現した経緯
2023.01.29 17:30
RUN DMC - Walk This Way (Official HD Video) ft. Aerosmith
2023.01.29 17:30
1980年代前半より始動した3人組で、MCのRUNとDMC、2002年に亡くなったDJのJam Master Jayから成る伝説のグループRun-DMCが、今年4月に最後のコンサートを開催することが先日発表された。ファイナルコンサートはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催される模様で、現在制作中のRun-DMCのドキュメンタリーフィルム用に撮影もされるという。
そんな彼らの代表曲を考えたとき、1986年にリリースしたエアロスミスとのコラボ曲「Walk This Way」を思い浮かべる人も多いだろう。エアロスミスが1975年にリリースした原曲をRun-DMCがカバーをし、レコーディングにはエアロスミスのボーカリストであるスティーブン・タイラーとギタリストのジョー・ペリーも参加。音楽史で最も影響力があったコラボ曲とも名高い楽曲だ。以前筆者がパーソナリティを務めていたJ-Wave「Booze House」でも語ったことがある当コラボ曲だが、「ヒップホップで社会を生き抜く!」第12回では、エアロスミス側の視点も混ぜつつさらに詳しく紹介したいと思う。
1985年にエアロスミスがリリースした『Done With Mirrors』はエアロスミスにとっての“復活アルバム”となるはずであった。ギタリストのジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードがバンドに再加入してから初のアルバムでもあり、ファンには期待されていたが、思い通りのセールスには至らなかった。ファンの間ではカルト的な人気を得ている作品でもあるが、ジョー・ペリーも同作について「エアロスミス史上最も退屈な作品」とコメントしており、MTVの代表でもあったDoug Herzogも「エアロスミスは終わった」と発言していた。
一方Run-DMCは、1984年の『Run-D.M.C.』、そして1985年の『King Of Rock』が好評であり、既にロックをサンプリングしたハイブリッドサウンドでも評価されていた。エアロスミスが『Done With Mirrors』をリリースした翌年の1986年に、Run-DMCはアルバム『Raising Hell』の制作していた。
エアロスミスの「Walk This Way」のイントロのドラムビートは、当時のヒップホップアーティストたちの間では定番であった。多くのラッパーたちは、イントロの4小節をループしてラップしており、Run-DMCも「Walk This Way」のドラムとギターリフをサンプリングして、新曲を作ろうとしていたようだ。Run-DMCのラッパーDMCは「DJたちはいつもイントロの4小節を巻き戻してループさせるから、オリジナルのリリックを聴いたことがなかった」と明かしている。
当初はサンプリングをし、新曲を作る予定であったが、プロデューサーのリック・ルービンがとある提案をしたそうだ。それは、ドラムとギターをサンプリングするのではなく、エアロスミスと同じリリックでカバーをするというものであった。ラッパーのDMCとRUNは、その提案を拒否したが、リック・ルービンとRun-DMCのDJであるジャム・マスター・ジェイに説得され、原曲のスティーブン・タイラーのリリックを初めて聴き、ラップパートのレコーディングを試みたようだ。DMCは初めてスティーブン・タイラーのリリックを聴いたとき、「うわぁ!こんなカントリー・ミュージックみたいなヒルビリーなちんぷんかんぷんなリリックやりたくねぇよ!」と叫んだと明かしている。DMCはこのアイディアはヒップホップファンからダサいと思われると感じていたとコメントしている。
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