関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第9回
なぜ、加山雄三が“若大将”と称されたかがわかる『エレキの若大将』
2023.01.09 12:00
2023.01.09 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画な語る連載「関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!」。第9回目は1965年に公開された映画『エレキの若大将』。
主人公の“若大将”こと田沼雄一(加山雄三)は、京南大学のアメリカンラグビー部次期キャプテンに任命され、自宅のすき焼き店「田能久」で宴会を開いた。しかし、その帰りに酔った“青大将”こと石山新次郎(田中邦衛)が飲酒運転で事故を起こしてしまう。事故の被害者は、楽器屋に勤める星山澄子(星由里子)。雄一は石山の罪を被るが、事故の賠償金をどうするか途方に暮れてしまう。
昭和を彩った「若大将シリーズ」の第6作目であり、岩内克己が監督を務める本作。加山自身が作曲した、代表曲の「君といつまでも」や「夜空の星」が挿入歌として使われていることでも知られているが、つい先日の紅白でラストステージを飾った加山の“スターぶり”が観られる作品だと、関根は熱く語る。
第9回『エレキの若大将』
僕は昔、小・中学生頃に『ゴジラ』が観たくて東宝に行っていたんですよ。そしたら併映が「若大将シリーズ」だった。クレイジーキャッツの映画が観たくて行っても、また併映が「若大将シリーズ」でした。人気があってね。ただ、小・中学生の頃の僕には、まだあのシリーズの良さがわからなかった。星由里子さんの綺麗さも、まだ色気づく前の中学生だったからわからなかったんですよね。だから、「早く終わらないかな〜」って観ていました。
ただ、自分がプロになって24、25歳くらいになった時に一度、その加山雄三さんの「若大将」ブームが起きまして。新宿とかでオールナイトで4本とか5本とか上映していたんですよ。一大ブームだったんですよ、その時に流行った理由が、よくわからないんですけどね。僕はそのオールナイトを観に行きました。その時は僕もお笑いをやっていましたから、作品の良さがわかるようになっていた。シリーズを通して、とにかく田中邦衛さんの面白さと、お父さん役の有島一郎さんの上手さ、おばあちゃん役の飯田蝶子さんと、これでもかというくらい脇を名優で固めている印象が強かったです。
映画自体は本当に明るくて、好都合で(笑)。ちょっとお金足りなくても、すぐに解決する。あの面白さは、今の日本の映画では作れないですね。クレイジー・キャッツの作品もあんな感じなんですよ。「無責任シリーズ」も、ああいう東宝の明るいタッチだし。あの時代だからこその、古き良きシリーズなんです。
みなさんの中には「サライ」を歌っている、昨今の加山さんしか知らない人もいるかと思いますが、本作で若い頃のハツラツとした二枚目の加山さんを観ていただきたいんです。僕が全作品観ているなかで今回『エレキの若大将』を選んだ理由も、まず加山さんを知らない初心者の方のために、加山さんがどういう人かを知ってもらいたいからなんです。加えて、あの作品がシリーズのピークでしたからね。加山さんはギターが上手いんですよ。あと歌が上手い。劇中歌の「君といつまでも」も「夜空の星」も、有名な「海 その愛も」も自分が作曲しています。それで、理数系が強くて船の設計もできるんです。あの光進丸は加山さん自身が造った。それと料理も得意。あと、素晴らしい絵も描くんです。もうちょっと太刀打ちができないんですよ(笑)。それでスキーは国体級でしょ? 運動神経も抜群ときた。そんな加山さんが唯一苦手なのが「団体競技」。ダメなんですって(笑)。だから『エレキの若大将』のアメリカン・フットボールは嘘です。ああいうのとかサッカーはできないらしいんですよ。個人競技が強いらしいです。
それで加山さんの若大将っていうのは、何と言っても“役作りができない”んですよ。ロバート・デニーロでも、あの役はできないですから。生粋のボンボンじゃなきゃ、アプローチできないんですよ。できるとしたら、長嶋一茂とか、松岡修造とか。そういう本当のボンボン。“ボンボン”って役作りできないんですよね(笑)。殺人者とか変態とか精神異常者は役作りできるけど、ボンボンだけはできないんですよ。滲み出る雰囲気が必要になってくるから。だから、加山さんが唯一無二の若大将なわけですよ。そしてヒロインの星さんも、小さい頃の僕にはわからなかったけど、最近また観たら、まあ可愛い。あのウランちゃんみたいな外巻きヘア! 僕は「どのくらい身長あるのかな」って気になったから、調べたら164センチもあったんです。結構背が高いので驚きました。加山さんと並んでもそんなに劣らないんですよね。高身長の女優さんっていうイメージがないから、意外でした。
加えて本作は『北の国から』では渋い田中邦衛さんの、それ以前の軽い演技が堪能できます。もう彼はロバート・デニーロみたいな感じで、素晴らしいですよね。田中さんには僕、ずいぶん憧れましたもん。だからコメディアンになって「カマキリ」やってる時、やはりどっか田中さんの“青大将”が入っていたかもしれない。それくらい影響を受けていましたね。
これは有名な話ですが、加山さんが劇中、日光で「澄子さんのために歌を作ったんだ」って言って、「君といつまでも」を歌うんですよ。そうすると二番から澄子さん歌い始めるでしょ。そこで初めて歌う曲なのに。これを加山さんが監督に「おかしいでしょ、設定としては僕が初めて彼女の前で歌うのに、どうして彼女は二番から歌えるんですか」って言ったら「いいんだよ、映画なんだから」って言われたらしい。それで不貞腐れて歌っているから、あのシーンは彼の顔が死んでいるんですよ(笑)。普通だったらニコニコしているはずでしょ? インタビュアーの人が「あれ、笑えって監督に言われなかったんですか?」って後日に取材で聞いたら「言われなかったよ。言われても笑わねえよ!」って答えたらしいです(笑)。
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