黒子首“ペンシルロケット”発売記念oneman tour 2022「Butterfly Crews」Spotify O-nest公演(写真:スエヨシリョウタ)
2022.12.21 17:30
黒子首がメジャー1stアルバムのリリース記念の東名阪ワンマンツアー「Butterfly Crews」を実施。ここではSOLD OUTした初日の東京公演をレポートする。
ライブは初見だったのだが、堀胃あげは(Vo/Gt)という表現者が飽くまでも音楽を通じて目の前のオーディエンスとコミュケーションする姿勢に、彼らの曲のタイトルでもある「クールに戦え」の真意を見た。実はもっと突き放したライブをするバンドかと思っていたのだが、そんな態度はクールでもなんもなく、自信のなさの裏返しでしかない。黒子首はもっと強いミュージシャンであり、表現者だった。
飛行機の着陸に見立てたアナウンスからスタートしたライブは1曲目からメジャーデビュー曲「やさしい怪物」で冒頭から盛り上がる。堀胃のトーキングとラップの中間のようなボーカルとアコギが生み出すグルーヴは他のバンドにはない特徴だ。サポートに秦千香子(Key/Cho)と江渡大悟(Gt)を迎えたバンドアンサンブルだが、堀胃のボーカルを生かす音量、特に田中そい光(Dr)のビートが干渉しないナイスバランス。そのバランスが静かな語り口のAメロを持つ「チーム子ども」でも光る。それでいて、音源よりグッとグルーヴを増しているのは、みと(Ba)の緩急の効いた16ビートのプレイもあるだろう。かと思うと、マスロック的なイントロからカラフルなメロディに移行していく「ランドリーランド」と、ジャンルに拘泥しないスタンスが明らかになる。
「今日のために生きてきたと言っても過言ではありません。楽しみキングになるために戦おう」と、独特な言い回しでワンマンライブを待ち兼ねていた旨を述べる堀胃。アーバンな「熱帯夜」、〈カップラーメンを待つ三分間で〉という歌い出し然り、生活感たっぷりな分、独りの時に感じる自己嫌悪が共感を呼ぶ「インスタントダイアリー」。ロケットの発射時の音声をSEで流し、演奏に繋いだ「あかい惑星」は堀胃のルーツであるYEN TOWN BANDの「やさしい気持ち」などに通じるエバーグリーンなシンガーソングライター的な構成と、言葉数の多さが新鮮な化学反応を起こす。「WANTED」では、みとのよく動くベースと堀胃のアコギがチェイスするのもスリリングだ。アウトロの潔い終わり方も相まって、どんどん曲が演奏されていく印象。貴重なチケットを手にしたファンは楽曲を聴き込んでいるようで、スパッと終わるエンディングに対しても絶妙なタイミングで拍手を送る。ワンマンライブを待望していたことが分かるリアクションなのだ。さらに、夕日のようなオレンジのライティングも感情に訴える「おぼえたて」へ。観念的な愛ではなく、実感・体感で得た愛を歌う王道のミドルバラードでも、堀胃の表現はどこまでも自分の内面から出てきた言葉だ。そのことに凛とした意思を感じる。
真剣に聴き入るフロアを混ぜっ返す勢いで(失礼)、田中が軽いノリで「バタクル」のハッシュタグを作ったもののあまり浸透していないと不満を漏らすも、堀胃はクールにあしらう。チグハグに見える3人のキャラの違いももはやバンドの個性。堀胃が少し過去を振り返り、キャラ然り音楽性然り、「もうちょっと分かりやすくすれば?」という外野のアドバイスに騙されたり、抗ってきたと話す。だが、そのどんな決断も肯定したいと、メンバーだけで「夢を諦めたい」を演奏。弾き語り部分で生々しく曝け出される独白は、今も堀胃の根底にあるのではないかと思えた。
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