新アルバム『FLOWERS』とバンドの現在地を語る
go!go!vanillas牧達弥に訊くメンバーの進化、新作で立ち返る“自分たちのフィールド”
2022.12.15 17:00
2022.12.15 17:00
自分が持っていたフィールドに未来がある
──『PANDORA』をリリースしたとき、とあるインタビューで、「アルバムには(サウンドを)シフトするプロトタイプの曲を入れる」と牧さんはおっしゃっていて。それが「アダムとイヴ」と「倫敦」というサンプリングも使ったR&B調の曲だったことを考えると、『PANDORA』を作っている時点では、次のアルバムでは、その方向性をさらに追求しようと考えていたということですよね?
そうですね。でも、今回のアルバムを作り始める時には気持ちが変わっていましたね。
──さっきおっしゃっていた人間力を感じながら、R&Bの要素を追求しようとはならなかった、と?
そうですね。でも、そうはならなかったですね(笑)。歌に関してはR&Bを含め、ブラック・ミュージックの意識は残っているんですけど、演奏と言うか、曲に関しては、ちょっと飽きているのかな。逆に今はバンド的なアプローチをしているアーティストが海外でどんどん増えてきていることもあって、元々、自分が持っていたフィールドに未来があると感じているんです。
──海外のアーティストって、例えばどんな人達ですか?
クルアンビンはびっくりしました。以前はタイのファンクを自分達で解釈してやる変なバンドだったんですけど、20年にリリースされた『Texas Sun』ってEPは、全然ファンクじゃなくて、どちらかと言うと、カントリーに近いルーツ・ミュージックをやっていて。ただ、めっちゃいいけど、懐古主義と言うか、クラシック・ロックが好きな人達にしか評価されてないんじゃないかと思ってたんですけど、グランストンベリー・フェスティバルのクルアンビンを見たらお客さんがめっちゃ熱狂していて。それを見たとき、すごい勇気が出たんです。一周回って、今はこれがクールなんだって。同時に、僕らが8年ぐらい前にロックンロールやルーツ・ミュージックに根差したものをやっていた時って、一番すれ違いの瞬間だったのかもしれないとも思って。でも、そこから8年経って、90年代とか00年代とかのリバイバルと言われているけど、そこから一番かけ離れたものから何か吸収したら面白いんじゃないかって。そう言えば、ハリー・スタイルズもめちゃくちゃロックンロールって言うか、ほんとミック・ジャガーが大好きみたいな感じで平然とやっていて、ちゃんと評価されているし、この間、ブルーノ・マーズの来日公演も見にいきましたけど、ブルーノ・マーズがアンダーソン・パークとやっているシルク・ソニックなんて、70年代のファンクやR&Bを、今の音でやっているし。そういうレトロ・フューチャーみたいな感覚がトレンドになってきているのかなと思ったとき、あ、一番得意なやつじゃんって(笑)。
──そこが原点回帰というところに繋がると思うのですが、原点回帰するには、まず進化を遂げないと。その点、バニラズは過激と言えるくらいアルバムごとに、いろいろな音楽の要素を取り入れながら進化してきましたね。
進化と言っていただけたら嬉しいですけど、僕らの感覚はもっと、何て言うか。僕がビートルズを好きな理由って、エルヴィス・プレスリーほどのセクシーさやカリスマ性を持っていない若者がロックに革命を起こしたところに夢があると思っていて。たとえばコード進行も含め、ジャズのフレーズもビートルズってなんちゃってでやっちゃうじゃないですか。そういう見よう見まねでやってみようっていう精神を、僕はずっとバニラズで掲げてきたんです。なので、進化を目指していたわけではなく、やったことがないからやってみようぜっていうのを、メンバーも僕も常にやってきただけなんですよ。
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