信頼のタッグが振り返る映画『次元を超える』の制作秘話
“超える”ことで演出はいらなくなる。豊田利晃監督×窪塚洋介の重なる人生が呼んだ偶然の連なり
2025.10.25 17:00
2025.10.25 17:00
窪塚洋介と松田龍平のダブル主演映画を豊田利晃が監督する。その字面だけで抑えきれない高揚を覚えた人も多かったはずだ。
ついに公開を迎えた豊田監督の最新作『次元を超える』で、窪塚が演じたのは“孤高の修行者”山中狼介。物語は、行方不明になった狼介を探してほしいという“狼介の恋人”野々花(芋生 悠)からの依頼で、“謎の暗殺者”新野風(松田龍平)が“危険な宗教家”阿闍梨(千原ジュニア)の家を訪れたことで展開していく。そして観客は木々が生い茂る山から宇宙の果てへといざなわれ、やがて対峙する2人を目にすることになるのだが……。
これまで何度もタッグを組んできた映画監督・豊田利晃と俳優・窪塚洋介。本作の裏話を聞きながら、言葉のいらない2人の信頼関係を垣間見た。

豊田監督が書いてくれる役は、パラレルワールドの自分として演じられる
──脳も心も揺さぶられるエキサイティングな映画でした。このタイミングで「狼蘇山」シリーズ(狼信仰をテーマに豊田監督が2019年から6年連続で制作している短編映画)の集大成を公開しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
窪塚洋介(以下、窪塚) 延びましたもんね、タイミングは。
豊田利晃監督(以下、豊田) 同じ神社を舞台に、内容が違う短編映画を毎年撮っていくということを修行のようにやっていたんですけど、「そろそろ長編が観たい」という声がいっぱい上がっていて。じゃあ頑張って長編作ろうか、と。
窪塚 と、言って作ったけど、前半で1回……。
豊田 そう(笑)。前半で予算ストップして、1年待って。運良く資金調達できて、後半を撮ったという。
窪塚 1年ずれたんですもんね。

豊田 でも窪塚が予言してたんです、2025年公開だって。2022年か2023年の、撮影が始まる前に話をしてて、2024年公開って言った時に「いや、2025年じゃないですか」って言ってたよね。
窪塚 資金がなくなると見越していたんですかね(笑)。
豊田 それで「次元を超える」っていう言葉は、窪塚と一緒にやった『全員切腹』(2021年)の時に、僕が腸閉塞になって入院してしまって、初号試写会にいないってことが起きたんです。それで(窪塚が)気を遣ってある酵素の博士を紹介してくれたんですけど、その博士のお話がすごく面白くて。宇宙の話とかを博士とする機会って、そういえば今までなかったなと。「僕、SF映画作りたいと思うんですけど、予算かかって結構難しいんですよ」って話したら、「簡単だよ。次元を超えればいいんだよ」って言われて、「その言葉いただきます!」と(笑)。それでパソコンを紐解いていたら、森永博志さんも「次元は変わる」という言葉を俺にずっと言っていたのを思い出して。『プラネティスト』(2020年)のTシャツのタグのとこも、見たら「次元は変わる」って書いてあるんだよね。
窪塚 あー! 書いてあった。
豊田 そう。それで「次元を超える・変わる」っていう言葉が引っかかって、一つの長編映画になっていったということですかね。
──窪塚さんは豊田監督とは何度もご一緒されていますが、今回の作品で演じた狼介というキャラクターはどのようにつくり上げていきましたか。
窪塚 今回だけじゃないんですけど、豊田監督との作品って、現実と虚構の境目がすごく曖昧になってくるんですよね。自分の言葉なんだけど台本として読んだりすることがあるから、「あれこの話、豊田監督にしたことあったっけ?」ってなるぐらい、豊田監督の書いてくれる役のセリフが一体化しちゃってるんですよ。だから役作りがいらないというか。もう一つのパラレルワールドの自分の人生だったとしてもおかしくないなっていうキャラクターなので、変な話、自分のまま別の時空・別の次元の自分として演じることができたって感じです。

──窪塚さんも個展や音楽制作なども含め、自身と深く向き合った経験があるかと思いますが、それが修行の道に進む狼介ともオーバーラップしていったような感覚ですか。
窪塚 そうですね。自分の実体験にある思い出だったり、その時感じたことだったり。もうちょっと大きい言い方をすると願っていることとか、そういうことも含めて豊田監督の手のひらの上で作品になる感覚があるので。豊田監督とは全然別の人生を歩いているけど、(指で円を2つ描きながら)こういう円でいうところの被ってくるところが多いのかなって気がしていて。それこそ博士もそうだけど、ここ何年かで自分の周りにあったコミュニティや仲間と、いつの間にか豊田監督が繋がってたりもして(笑)。
豊田 (笑)
窪塚 昔からの友達から「いや、この間豊田さん来てさ」とか「豊田さんと山登ったんだけど」って、自分のコミュニティの中でより豊田監督の名前を聞くようになってきた感覚があって。だから余計にここに立ち上ってくるキャラクターや作品が、前よりも自分に近かったり、密度が濃くなってる感じはします。
次のページ
