演じ続けてきた20年を経て清水邦夫の名作戯曲に挑む
「やっと心から笑えるようになりました」岡本玲が憧れてばかりの自分を肯定できた理由
2025.10.09 18:00
2025.10.09 18:00
憧れの人みたいになれない自分を責めなくていい
──最近、何か些細なことで心は動きましたか。
う〜ん。ふらっと入ったパン屋さんのパンがすごくおいしかったとか?(笑)
──最高ですね。
塩パンだったんですけど、すごくおいしくて。もう本当にそれだけで今日は幸せな1日だなって思います。他にも心から笑ったこととか、きっとたくさんあるんですけど、何にも覚えていないんですよね。でも私はそれっていいことだと思っているんです。だって、人間、嫌なことほど覚えているものじゃないですか。それがないということは幸せな証拠なんだと思います。
──逆に、嫌なことが起きた日はどうしてるんでしょうね。
そのときは、今日は成長できる日だったなって捉えるようにしています。そしたら、嫌なことが嫌じゃなくなる。なんでも考え方次第なんですよね。だから、最近、嫌な気持ちを引きずったまま1日を終えることがない気がします。

──稽古で怒られたり、ヘコんだときはどうやって気持ちを回復させるんですか。
う〜ん。そもそも回復が必要かな?って思うんですよね。
──どういうことでしょう。
人間なので私もダメージは受けるし、ヘコみはします。でも、そこで気持ちを切り替えるのって、ヘコんだ自分を無視することになる。それって本当にいいことなのかなって思うんですよね。ヘコんだ姿を人に見せるのは甘えになるので、無闇にそういうことはしませんけど、ヘコんだ自分を無視はしない。無理に何かを忘れる必要はないと思います。
──それこそ、この作品は“家族ごっこ”という形で、登場人物が自分とは違う誰かの役を演じていきます。岡本さんは別の誰かになりたいですか。それとも自分のままがいいですか。
私はずっと自分じゃない誰かになりたくて、この職業を続けてきました。だから、もはや自分じゃない誰かになっている自分もまた自分なんですよね。もうずっとそのループを繰り返している。だからそれでいいのかなって。他者になりたいとずっと思っている自分が、私なんです。
この人の挨拶の仕方素敵だな。こんなふうに振る舞えるようになりたいな。私の日々は、他の人に憧れることだらけです。でも、そういう自分を否定しない。そして、憧れの人みたいになれない自分を責めることもしない。もしかしたらいつか私もなれるかもしれない。この先、変われるかもしれない自分を楽しみにするようにしています。

──未来の自分、楽しみですか。
楽しみです。
──たとえば5年後、岡本玲はどうなってると思いますか。
全然わからないですね。それに、わからないから楽しみなんです。よくどういう役者になりたいですかという質問をいただくんですけど、その答えがわからないから、この先が楽しみなんだと思う。あと、ちょっとイケズな言い方ですけど、言いたくないっていうのもある(笑)。
──正直ですね(笑)。
もし言った通りになっていなかったら、なれなかったんだって思われるじゃないですか。それが悲しいから言いたくないです(笑)。
──じゃあ、逆に5年前の自分に声をかけられるとしたらなんて言ってあげたいですか。
大丈夫だよって言ってあげたいです。きっと5年前の自分が今の自分を見たら、頑張れるんじゃないかな。そう胸を張って言えるくらい、今すごく楽しいんです。

スタイリスト:藤谷香子