日米共同制作ドラマ『HEART ATTACK』で得た手応えとは
寛一郎と三浦透子が認め合う“変わらなさ” 2人がSF作品を通じて現代に差し伸べたもの
2025.05.01 19:00
2025.05.01 19:00
僕らは可能性に賭けることしかできない
──ストーリーは分断やマイノリティ、家族や血縁をめぐるつながり、自分が持つ特殊能力の扱い方といった、自問自答が尽きない複数のテーマを扱っています。それについて現場で監督やキャスト陣が現場でディスカッションするようなことはありましたか?
三浦 どうだろう? テーマ性についてはどうだった?
寛一郎 監督自身は今作のテーマについてすごく思うところがあると聞いていました。でも、現場ではどちらかというとこの世界観をどう成立させるかにエネルギーが注がれていた印象があります。僕もそこに精一杯だったし。でも、一度ウミンのセリフに違和感を感じ、監督に相談したことがあったんです。
──それは寛一郎さんがイチ個人としてその言葉を口にしたくなかったということですか?
寛一郎 個人としての意思においてもそうですし、それを言ってしまうとこの作品が机上の空論のようになってしまう気がしたんです。それは差別を断定的に「なくせる」と言い切るようなセリフだったんですけど。僕はそこにどうしてもリアリティを持てなかった。だから、「エマとなら何かを変える気がする」というセリフになったと記憶しています。

──可能性について語るセリフに変えてもらったと。
寛一郎 そう、だって可能性に賭けることしかできないですから。
──ウミンとエマに照らし合わせて、透子さんと寛一郎さんが持っている表現力も特殊能力のひとつであるとするなら、それによって生じる社会での生きづらさのようなものに対してはどう思いますか? つまり、表現者を生業にすることで生じる第三者からの好奇の視線であったり、様々なストレスも宿命的に向き合わなきゃいけない仕事であり能力という見方もできるのかなと。そこまで言うと、こじつけすぎですかね?
三浦 自分がこの職業をしていることをこの作品にドンピシャに照らし合わせたわけではないですが、ただこの作品のストーリーにある構造自体は自分の身近にあるものだなと思うので。自分がこの表現ができること、この表現を仕事にしていること以外にも人と違うところっていっぱいあるので。
寛一郎 そうだね。
三浦 だから、自分も差別する側に回ってしまうことだってあるなという怖さについても考えたというか。
──そうですね。簡単に立場が反転してしまう怖さについても本作は描いていますね。
三浦 そうですね。それくらいどっちがマジョリティでどっちがマイノリティになるかって難しいバランスの上に成り立っていると思います。
──本作のストーリーは特殊能力が遺伝によって受け継がれるという側面もありますが、寛一郎さんはご自身の出自と重ねる部分はなかったですか?
寛一郎 たしかに受け継いだ血の影響はもちろん僕にもあって。でも……どうなんだろうな? 僕はそこに対しての葛藤は、今はもうないんです。たしかに昔は葛藤がありましたし、「逃れられないな」と思う瞬間もありました。でも、これを事実ベースで話したら才能って半分は遺伝で決まるとも言われていますし、そこはもう事実として受け止めている感じです。ただ今作では“血”だけじゃない“愛の力”も描かれているじゃないですか。ウミンと岸谷五朗さん演じる劉の関係もそう。血は争えないけど、残りの部分に何を込めるのか。そこに込めるものは自分で選べるじゃないですか。それが人生なんだろうなって、今回あらためて思ったところでもあります。

──たしかにウミンの成長過程と劉との関係をつまびらかにするシーンはすごく印象的でした。あのシークエンスに1話丸々割いてもいいとさえ思いました。
寛一郎 そうですね。劉は歪んではいるけど、彼に愛はたしかにあった。あそこは本当に印象に残っています。血はつながっていなくても、時間を共有した人との絆がどれだけ深いか──「家族って何だろう?」って問いかけるようなシーンでしたね。あのシーンがあるからこそ、救われましたよね。
──まさに絆の可能性についての問いかけだったと思います。そして今作は分断を描きながら、それを他者と連帯しながらどのように乗り越えていくかが、テーマの背骨だと思います。寛一郎さんと透子さん、それぞれ今のご自身の視点で、誰かと手をとっても死守したいものはありますか?
三浦 うーん……やっぱり、人から求められることが多い仕事ではあるので、私はどうしても性格的にそれに応えたくなるんですね。もちろん、人の期待や要望に応えること自体は悪いことではないけれど、だからこそ自分自身に正直でいられるかどうか、そこがすごく大事だと思っています。難しいけど、自分に正直にいたいですね。それが自分の大切な人を守ることにもつながってくるかもしれないし。極端なことを言いますよ?(笑)この仕事を守るために嘘をつくくらいなら、自分が正直でいるための選択をして立ち止まるほうを選びたいですね。
寛一郎 僕は、この作品が描いている“希望”がすごく好きなんですよね。作品に希望を乗っけて、描くこと。それが表現におけるひとつの答えじゃないかって思うので。ウミンとエマが手をつないで力が増幅する──あれも象徴的な暗喩だと思うし、僕たちも仕事をする中で、もちろんストレスや嫌なこともあるけど──でも、理想論かもしれないけど、誰かと手を取り合っていいものが作りたい。その希望の感覚を信じていたいです。

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