Netflix『ムーンライズ』を重要キャラの声と主題歌で彩る
今は自分のためじゃなく、“あなた”のために歌いたい。アイナ・ジ・エンドという表現の浄化力
2025.04.16 18:00
2025.04.16 18:00
声優は生半可な気持ちじゃできない
──実際に画面の中で動いているマリーを見た時はどんなことを思いましたか?
自分の声が聞こえてくると慣れないというか。課題ばかり見つかってしまう、というのが素直な気持ちなんですけど、『ムーンライズ』はお話が本当に面白いので、自分の声優としてのキャラがどうとかじゃなくて普通にのめり込むことができました。声ももちろん大事なんですけど、それを凌駕する作画と話の面白さが漂っている作品だなって思って驚きました。

──僕も同じだったんですけど、確かにマリーにはアイナ・ジ・エンドに重なる部分がすごくあるような気がしたんです。マリーを見ていて、そこにアイナさんがいるなという感じがしました。
本当ですか。でも、自分ひとりで作り上げた感じはなくて。指導していただいた三間さん、テイクを選んでくれた監督、みんながマリーを作ってくれた気がします。私はマリーが大好きで。ちょっと憎めないところもあるけど、本当に真っ直ぐにひとつの目標を掲げて旅を続けられる強さがある。そういう女の子はあんまりいないと思うので、もし目の前にいたら喋ってみたい女の子だなと思うような、魅力的な子だなと思います。
──アイナさんは映画とかミュージカルとかも含めていろんな表現をされてきていますけど、声だけで演じることの面白さとか難しさについてはどういうふうに考えてますか?
本当に難しいですよね。感情は悲しいと思っているのに、演技しても全然その「悲しい」が声に乗らないとか、怒ってるのに怒れてないとか、「なんでだろう」みたいなのはすごく考えました。声を荒げるときは声帯の位置を上げるとか、プロ的な技術っていうものがかなり必要なんだろうなっていう。生半可な気持ちじゃできないのが声優なんだろうなって思いました。
──普通に生身で演じるんだったら、表情とか体の動きとかでサポートしていけるところもあるけど、それが一切ないわけですもんね。
本当におっしゃる通りでした。私は4歳からダンスをやってきてるから、言葉より先に行動に出てしまうタイプだったんですけど、全然それが通用しないっていうのがずっと「悔しい、悔しい」って感じでした。同じ声でも、やっぱり歌とは違うし。だけど、マリーに関してはちょっと空気を軽くしてくれる役割でもあったと思うので、いい役を本当にいただけたな、ありがたいなと思っています。ずっと張り詰めた役だったらきっとできなかったけど、ちょっとおちゃらけたところもあったので。そんなマリーに助けられてなんとかできたって感じです。

──改めて主題歌の「大丈夫」についても伺いたいなと思います。先ほど2年ぐらい前、まだBiSHをやっていた頃に作ったということですけども、書くときはどんなことを考えていましたか?
もう「大丈夫」っていうワード、これに焦点を合わせようっていうのが最初の決心というか。「大丈夫」が一番届きやすいメロディーを考えようみたいなのが始まりでした。当時はジャニス・ジョップリンの舞台(『ジャニス』)とか映画『キリエのうた』の撮影中とかだったんですけど、合間を縫ってずっとボイスメモを開いて〈大丈夫 大丈夫〉ってメロディを探す旅に出てました。でも、そうやって歌っている期間って、いつもは長ければ1年くらいあるんですけど、この曲に関してはわりとすぐ「これだ」というのが浮かんで。そこからが長かったんですけどね。
──「大丈夫」っていう言葉はもともとアイナさんにとってすごい大事なものとしてあったりしたんですか?
いえ、プロットを読むなかでキャラクターみんな、特にリースとかジャックってずっと自分の過去とか自分の気持ちと戦っているじゃないですか。このキャラクターたちにとって一番欲しい言葉は「大丈夫」かなって。
──なるほど。みんな大丈夫であって欲しい、というか。
そうですね。マリーもマリーで、ずっと一生懸命旅してるけなげな女の子だし、みんな本当に素敵なキャラなんで。みんなに幸せになってもらう言葉で曲を作りたかったです。
──アイナさん自身の心境みたいなものもそこに重なりましたか?
そうですね。ジャックは結構自分の過去とか負のエネルギーを抱えて旅に出るんですけど、そればかりじゃ進めないじゃないですか。感謝したりもしないといけないというか。それを自分の境遇にも当てはめて、〈ありがとう 思い出さなきゃ/ぼくたち このままなんだ〉という歌詞を書いたんです。ここは自分もジャックに似てるところもあるから、ジャックと私の心情を重ね合わせました。
──最初のきっかけから時間をかけて音を紡いでいって、完成したのはいつ頃だったんですか?
2023年の……BiSHの解散前にはできてましたね。

──そこからもうすぐ2年ぐらい経つわけですけども、改めて見返したときに、どんなことを思いますか?
変わらないです。最初にプロットを見た時から。キャラクターの一人一人の濃さが尋常じゃないなって最初から思ってたんですけど、「ムーンライズ」にはそのキャラひとつずつを愛し抜ける描写があるじゃないですか。それが本当に稀有なことだなっていうか。全キャラクターに感情移入できたので。
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