Netflix『ムーンライズ』を重要キャラの声と主題歌で彩る
今は自分のためじゃなく、“あなた”のために歌いたい。アイナ・ジ・エンドという表現の浄化力
2025.04.16 18:00
2025.04.16 18:00
原作をSF作家の冲方丁、キャラクター原案を『鋼の錬金術師』の荒川弘、監督を『進撃の巨人』シリーズの肥塚正史が務め、同じく『進撃の巨人』で世界中にその名を轟かせたWIT STUDIOが制作するNetflixの完全新作アニメ『ムーンライズ』。
地球と月を舞台に濃厚な人間ドラマとダイナミックなアクションシーンが展開するこの作品で、物語の重要な鍵を握るマリーという人物を演じたのがアイナ・ジ・エンドだ。
映画『SING/シング: ネクストステージ』以来となる声優に挑戦した彼女は、主題歌の「大丈夫」も書き下ろし、『ムーンライズ』の世界をその声でいっそう豊かに彩っている。2023年のBiSH解散以降、ソロアーティストとして一層活躍の幅を広げているアイナは、今作にどんなふうに自分を重ね、何を表現しようとしたのか。昨年の武道館ワンマンとアルバム『RUBY POP』以降、より開けたモードに突入しつつある今のアイナ・ジ・エンドに、作品と主題歌への思いを語ってもらった。

マジでいい曲作ろうっていう感じでした
──「ムーンライズ」、とても面白くて一気に観てしまいました。アイナさんはその中ですごく重要な役を演じられましたけど、作品全体を通してはどんなことを感じましたか?
SFとか、月と地球みたいな大きい規模の物語はもともと好きなんですけど、この「ムーンライズ」はちょっと恋愛模様とかもあったりして、とても親近感があるなって。だから、SFを見たことない人も面白がってくれるんじゃないかなって思える、新鮮な作品だった気がします。
──アイナさんが演じたマリーというキャラクターは物語の途中から出てくるんですけど、最初出てきたときはちょっと謎な存在で。マスクごしの声だからそれがアイナさんだっていうことにも一瞬気づかなかったんですよね。
(笑)
──それが物語が進むにつれてどんどん重要な役になっていって。
そうなんです。私もびっくりしました(笑)。
──最終的には主人公のジャックの過去とか、月と地球のつながりとか、物語の根幹にかかわるような役柄だったわけですけど。今回のオファーを受けたときにはどんなことを感じましたか?
今回は、マリーの役の話の前に、『ムーンライズ』の主題歌を作らせていただけるっていうお話をいただいたんです。それがまずは嬉しかった。プロットを何回も読んで「月っぽい音は何だろう」とか「地球には鳥がいるから鳥のさえずりがいるな」とか、曲から入っていきました。
──主題歌が先だったんですか。
そうなんですよ。だからマリーについてはもうちょっと後でちゃんと紐解いていったんですけど、最初はマジでいい曲作ろうっていう感じでした。
──主題歌の「大丈夫」本当に素晴らしい曲だなと思ったんですけど、これはマリーというよりも「ムーンライズ」という作品そのものに向き合って生まれたものなんですね。
そうなんです。正直、セリフのない役だろうなくらいに思ってたから(笑)、そこをあまり重要視していなくて。本当に曲を遺作にするぐらいの勢いで──まだBiSHにいたんですけど、本当にめっちゃ頑張ってた記憶がありますね。

──アイナさんをそこまでのめり込ませたものは何だったんですか。
プロットを読んでいくと、戦いのシーンも多いし、結構ヒリヒリするようなシーンが多いので、エンディングの〈大丈夫〉っていうワードと優しい音質感で観る人を癒してあげることができそうと思ったのがきっかけで。そういう役割を全うするのが、たぶん好きなんですよね。人を浄化していく作業っていうのが好きなので、これはもう大抜擢だ! みたいな感じでのめり込むことができました。
──確かにあの作品のなかで「大丈夫」という曲はまさに救い、癒しのような存在になっていますね。
うん、なりました。自分では自分の曲のことを「いい」って言いづらいんですけど……本当にいいって思う曲になりました。
──じゃあ、その主題歌の後に、演じるマリーという役がすごく重要なものであることに気づいた。
本当そう。それで不安が押し寄せて……。
──不安が。
でも『SING/シング: ネクストステージ』で声優をやらせていただいたときに、音響監督の三間(雅文)さんにはお世話になっていたので、三間さんがいるから大丈夫かもって思えたし、実際に三間さんにも「できると思ったから頼んでる」って言っていただいて。その言葉を信じてやってみました。

──マリーというキャラクターに対しては、どんなことを思いましたか?
最初はジャックのことがすごく好きだし、一筋でちょっとウザったいやつだなって思いました(笑)。脚本を読むだけだと「敵を作りやすいタイプだな」と思ったんですけど、意外と秘めた力もあるし、まっすぐに旅を続けられる女の子だから「憎めないな」と思って。それがちょっと自分にも重なったんです。アイナ・ジ・エンドという名前で毛嫌いされてもおかしくないような、ガラガラの声の自分のパーソナリティと重なる点があったのでやりやすそうだなと思いました。でもとても難しくて。アフレコが近づけば近づくほど不安が寄せ寄せるくらいずっと緊張してました。
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