映画『BAUS』の監督と主演俳優が明かす制作背景と映画観
甫木元空と染谷将太の青春回顧、変わりゆく映画館の価値に2人が思うことは
2025.03.28 18:00
2025.03.28 18:00
感覚が変われば映画館に行く価値は上がる
──ある意味、表現者としてイタコっぽい瞬間もライブ観てて思ったりしますもんね(笑)。音楽でいうと染谷さんは『TOKYO TRIBE』でラップを披露されていたり、『みんな!エスパーだよ!』では前夜祭でDJをやられたり、音楽的な表現もされてきたと思うんですけど、染谷さんの音楽観も聞いてみたかったです。
染谷 そんなに語れるほどのものではないんですが、音楽は大好きです。映画を生業としていますけど、それと等しく日常生活にあるものが音楽だと思いますね。芝居を25年やってきて最近気づいたんですけど、自分はめちゃくちゃ音を気にしているんですよ。セリフを喋る上でも、今自分はどういう音を出しているのかってことがものすごく気になるということに気付いて、音で伝える感情が好きなのかなと思いました。

──本作の冒頭に『カリガリ博士』が起点として出てきますが、お二人にとって表現を生業にすることの起点となった作品や出来事は覚えていらっしゃいますか?
甫木元 僕は、大学で青山さんが先生として赴任する前年に「来年すごい凶暴な監督が赴任してくるらしい」って話を聞いて(笑)。
染谷 凶暴って(笑)。
甫木元 で、爆音映画祭に(青山真治監督・脚本作の)『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』を観に行ったんですけど、爆音映画祭なのに小さい音のほうに耳がいく調整になってて、それがすごく面白かったんですよね。映画の内容も含めて、西部劇をSFで、北海道で、音楽映画でみたいな、いろんなジャンルを少しだけ逸脱した映画ですごい衝撃でしたね。
染谷 自分は中学生の時に『14歳』っていう作品に出させてもらったんですけど、今まで自分が観たことなかった作品に出たことで自分の中で映画を観る世界が広がったんです。現場もすごく素敵な現場で、「あ、この仕事を職業にできたら嬉しいな」ってその時に初めて思ったかもしれないですね。

──最後になりますが、本作はオンデマンド視聴も一般化した現在において、バウスのようなカオスな遊び場というか、ああいったものの良さを突きつけてくれた作品だと思います。お二人が今思う映画館の意義をお伺いできればと思います。
甫木元 自分以外の人たちと暗闇の中で一つの画面を観てるって異常なことだと思うんですよね。それを体験として持って帰るというか、映画館を出た後の風景のほうが覚えていたりとか、そういうのが劇場に行く面白さだなと思っていて。ちょっと間に合わなかったとかで冒頭を見てないけどめっちゃ面白くて、自分の中でその見てない部分を想像したり、でも最近見直したら全然面白くなかったとか(笑)。それが繰り返されているというか、そういう一過性のものが劇場とセットになることであるのかな、と思いますね。
染谷 劇場で映画を観ることって、自分の中では手軽に出来る贅沢だと思っていて。昔はもっと生活の一部にあったかもしれないけど、逆に「ちょっと頑張ったらできる贅沢」っていう感覚になって欲しいです。そうすれば映画館に行くという価値が上がるのかなと思ったりしていて、より豊かになるんじゃないかなと。

スタイリスト:林道雄/ヘアメイク:光野ひとみ
衣装:サスクワァッチファブリックス、セージ ネーション、ナイスネス
甫木元空
スタイリスト:松枝風/ヘアメイク:嵯峨千陽
『BAUS 映画から船出した映画館』場面写真 ©︎本田プロモーションBAUS/boid