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INTERVIEW

主演作『早乙女カナコの場合は』で懸命に生きる女性像を体現

過去を肯定し、人を愛することで救えた自分。今の橋本愛が紡ぐ「人間って」に続く言葉

2025.03.21 17:00

2025.03.21 17:00

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インタビューでは時にはしゃぐような笑顔を見せ、撮影ではフォトグラファーに乞われて、イタズラっぽい顔でピースサインを決める。ミステリアスな美しさをたたえた橋本愛は、その実、とても素直でチャーミングな人だった。

でもそれは、彼女がいろんなしがらみからちょっと自由になれてきたからかもしれない。「自意識ばっかりでした」と語る10代、「やり直せるなら全部やり直したい」20代を経て今、彼女は言う、「過去の自分をすべて私は肯定して生きている」と。

29歳になった橋本愛の最新主演映画『早乙女カナコの場合は』は、この社会をもがきながら生きている女性たちの物語。大学入学と同時に出会ったサークルの先輩・長津田とカナコの恋を、およそ10年という歳月を通して描いていく。映画の中のカナコは、決して正解ばかりを選べているわけじゃない。喧嘩したり、意地を張ったり。幸せから逆走するような決断も、ある。でもそのすべてが彼女の精一杯。だから、眩しく美しい。

そして橋本愛もまた時に傷つき悩みながら、自分自身に誠実に生きている。

橋本愛

演じてきた役は「私の子ども」みたいな感じ

──映画好きで知られる橋本さんにとって、映画の世界で生きる時間は、自分自身にどんなものをもたらしてくれますか。

単純にお得だなって。自分以外の人生をこんなに知れることってなかなかないし。それも単に知るだけじゃなくて、実感を伴って知ることができる。自分の体に、こんなにもいくつもの人生があるって超お得じゃん、と思っています。

何より、映画に限らず、私は作品というものに生かされてきた側の人間だから、自分たちのつくったものは絶対誰かに届くって希望と確信を持って言えることにすごくやりがいを感じます。映画や芸術は、社会を大きく揺るがすだけの影響力を持っている。そこに自分が携われる責任と、社会に貢献できている喜びがありますね。

──これまで橋本さんはいろんな作品でいろんな役を演じてきました。自分が演じてきた人物の考え方や決断が、橋本さん自身の人格形成や価値観の醸成に影響を及ぼしているところってありますか。

水面下ではあるんだと思います。役が感じた感情を、そのときに感じたまま思い出すことがあって。子どものときに感じたことが、何かのトリガーを引いた瞬間、もう何十年も前なのに当時と同じ質量で甦ることってあるじゃないですか。それは、潜在意識には時間がないからだと言われていて。同じように、演じた役の感情や経験が私の潜在意識に蓄積されていて、きっと私の計り知れないところで私自身を形成しているんだと思います。

──演じ終えた役って、橋本さんにとってはどういう存在と形容するのがいちばんしっくり来ますか。

言い方としては、「私の子ども」みたいな感じがします。田中泯さんが過去の自分のことを「私の子ども」と言っているように、私も自分が演じた役にそんな感情を抱いています。

──そんな橋本さんが今回演じたのは、早乙女カナコというちょっと不器用な女性です。他にも、モテの文化に取り込まれている麻衣子や、結婚や出産のタイムリミットに揺れている亜依子など、いろんな女性の姿が映画では描かれていました。橋本さんは誰の葛藤がいちばん心に刺さりましたか。

私はやっぱりカナコに共感するところが大きかったです。カナコの根本には男性恐怖症というものがあって。男性から性的な目で見られることを拒否したり、自分の中からいわゆる女性らしい振る舞いを排除したり、生き抜くために男社会に迎合したり。そういうところは私自身にも重なるものがありました。カナコは自分自身の自意識が生み出した、こうありたいという理想像に自分を当てはめて生きている。その苦悩や葛藤は共感できますね。

映画『早乙女カナコの場合は』本予告

──カナコの生み出した理想像というのは、必ずしも本心からそうありたいと思っているものかどうかなんとも言えないところが難しいですよね。ある種、社会的な要請によって、そうならざるを得なかったというか。

本当におっしゃる通りで。きっとカナコは自分らしさについて考える暇もなく戦ってきた人かもしれないんです。あのラストを見たときに、きっとこの映画が終わったあとで、ようやく本当の自分と向き合えるんだろうなって想像が膨らんだんですね。真っ白な未来が見えるような希望を抱きました。

──面白いです。今のお話を聞くと、あのラストが腑に落ちるというか。あそこで終わるんだっていう。

脚本はあのもっと先まで書いていましたし、私たちも演じているんです。だから、ここで切ったんだというのは意外で面白かったです。結論を出さないことによって、私たちに投げかけられた気がするし、逆に残るものがありましたね。

──男性に恐怖心を抱くカナコが、長津田に惹かれたのはどうしてだと考えましたか。

台本を読んだ段階では、理屈としてはわかるけど、どういう感情だったのかは想像でしかなかったんです。でも映画の序盤に登場するダンスのシーンをやって体感的に理解できるものがありました。あれは原作にはない映画のオリジナル要素なんですけど、踊ると手と手がふれ合うし、体も近づく。当然その手からは性的なニュアンスが流れ込んでくる危険性があるんですけど、あのとき長津田には恐怖心を一切抱かなかった。カナコにとって、そんなふうに感じられる男性は長津田以外いなかったんです。そこが、二人が特別な関係になった大きな要素のような気がします。

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こじらせていた自分にかけたい言葉は

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作品情報

早乙女カナコの場合は

©︎2015 柚木麻子/祥伝社 ©︎2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

©︎2015 柚木麻子/祥伝社 ©︎2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

早乙女カナコの場合は

2025年3月14日(金)全国公開
配給:日活/KDDI
2024/日本/DCP/2:1/5.1ch/119min 映倫区分:G

公式サイトはこちら

キャスト&スタッフ

出演:

橋本愛
中川大志 山田杏奈
根矢涼香 久保田紗友 平井亜門/吉岡睦雄 草野康太/のん
臼田あさ美
中村蒼

監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊)
脚本:朝西真砂 知 愛 音楽:田中拓人
主題歌:中嶋イッキュウ「Our last step」(SHIRAFUJI RECORDS)

製作:石井紹良 髙橋紀行 宮西克典
プロデュース:中村優子 金 山 企画・プロデューサー:登山里紗 プロデューサー:古賀奏一郎
撮影:石井勲 照明:大坂章夫 音響:弥栄裕樹 美術:高草聡太 装飾:杉崎匠平
編集:目見田健 衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:酒井夢月
キャスティング:北田由利子 助監督:古畑耕平 制作担当:福島伸司 宣伝協力:FINOR

1996年1月12日生まれ、熊本県出身。

映画『告白』(’10/中島哲也監督)に出演し注目を浴び、映画『桐島、部活やめるってよ』(’12/吉田大八監督)では、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。同年に出演した連続テレビ小説『あまちゃん』(’13/NHK)でも話題となる。主な出演作品は、映画『熱のあとに』(’24/山本英監督)、映画『アナウンサーたちの戦争』(’24/一木正恵監督)、映画『私にふさわしいホテル』(’24/堤幸彦監督)など。今後は大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(’25/NHK)への出演を控える。独自の感性を生かしてファッション、コラム、書評などの連載を持ち幅広く活躍中。

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