映画『世界征服やめた』に込めたもの、求める仲間像とは
「大事なのは、現場で何を感じるか」北村匠海×萩原利久×藤堂日向が向き合った表現の究極
2025.02.09 17:00
2025.02.09 17:00
10年後、また3人で何か一緒にできたら
──北村監督は、今回、役者の芝居を見る上で「初期衝動を大切にした」というふうにおっしゃっていました。表現者にとって初期衝動ってすごく大事なものだと思うのですが、一方で経験を積むにつれてすり減っていくものだとも思うんですね。初期衝動というものと今どう戦っているかを聞いてもいいですか。
北村 初期衝動というのは、僕が芝居をするときに大事にしている言葉です。普段役者をやっているときは、僕はめちゃくちゃ現場主義なので、現場前に100%何かをつくることはほぼなくて、現場で自分が何を感じるかなんですね。たとえば、普段人と話をしていても、相手の靴下の左側だけちょっと下がってるなとか、そういうことがちらっと気になったりするじゃないですか。芝居においてもそれが必要だと思っていて。
会話をしていて情報として入ってくるものを、いかに新鮮に受け取るか。それを初期衝動と呼ぶのかはわからないですが、その鮮度というのはおっしゃる通り年々なくなって、どんどん技術的になっていく部分もあると思うんです。今回、利久と日向に初期衝動を大切にしてほしいと言ったのは、その鮮度を楽しんでほしかったからで。あえてテストなしで本番に入ることを何度もやってみました。
萩原 いろんな現場をこれまで経験してきましたけど、今回の現場はそのどれにも該当しないシチュエーションをたくさん匠海がつくってくれたので、僕自身も「次は何が来るだろう」って楽しみながらやれた実感があります。
ただ、じゃあ普段はどうかというと、匠海の言う通り技術的になっていると感じることは僕もあって。僕も現場に臨むアプローチは匠海と似ていて、どんな準備をしたとて現場はそれを絶対に超えてくると考えているんです。自分の想像を超えなかった現場はないし、前の日まであんなに悩んでいたのに、現場に入ったらびっくりするくらいピースがハマっちゃったという経験も何度となくあります。
だから、役者にとって大事なことは、いかに現場でキャッチできるかなんです。自分の想像していなかったものが来るのが表現の楽しさだし、それをどれだけ見つけられるかが、芝居の鮮度を上げる方法になる。でもそれには何も考えずに現場に行ってもダメで。結局、事前に準備をすればするほど見つけられたりするんです。固めすぎてもいけないし、手ぶらでもいけない。この矛盾を楽しむことが、僕の初期衝動の保ち方なのかなと最近は思ったりします。
藤堂 僕は16のときに初めてお仕事をして、18になってまた芸能の道を歩みはじめて、そこから9年間くらいずっとエキストラ会社を転々としていたんですね。最近役者として現場によく行かせてもらうようになったんですけど、今改めてエキストラさんとやってた芝居も楽しかったなって感じるんですよ、不思議なんですけど。
エキストラさんって本当生なんですよ。なあなあでやっている人もいますけど、中には本当に生きている人がいて。そういうのを見ると、初期衝動に近いものだなと思うし、現場の経験が少ないからこそ出るものだなと思う。エキストラをやってる期間が長かった分、その面白さを肌でたくさん感じてきたのは、自分の役者としての特徴なのかなと思っています。
──今回の作品は、みなさんのこれまでのいろんな出会いと縁が積み重ねって生まれたものだと思います。これから先、みなさんはどんな人と出会いたいですか。
萩原 僕は10年後の匠海です。もう今すでに匠海はいろんな肩書きを持っていますけど、10年後はきっともっと今の僕たちでは想像もつかない肩書きを得て何かに取り組んでいそうというか、匠海がどんな新しい肩書きを持っていても驚かない気がするんです。
そんな匠海と、10年後、またこうして3人で何か一緒にできたら素敵だなと思う。僕の中で匠海は、僕たち世代の先陣を切り続けている存在。10年後、また新しい何かを背負った匠海と出会いたいなと思います。
藤堂 僕は自分の周りを匠海みたいな人で固めたいと思っていて。
北村 それは厄介だぞ(笑)。
藤堂 (笑)匠海は人の痛みを知っている人なんです。そういう人って意外と少ないなと体感で思っていて。匠海は、僕の中で人との出会いをつなげてくれる人。それこそ利久くんとつなげてくれたのも匠海なので、匠海とのつながりを大事にしながら、そこから生まれる新しい出会いを楽しみにしている自分がいます。
北村 僕は常日頃から仲間をずっと探しているんですね。正直、クリエイティブにおいて自分の立ち位置はなんだっていいんです。役者でも監督でもカメラマンでもいい。ただ、北村匠海と面白いことをやろうぜ、北村匠海で面白いことをやろうぜと言ってくれる仲間をずっと探し続けていて。それが利久であり日向であり磯村勇斗であり、そういう仲間と10年後20年後好きなものをつくり続けていたいなという未来への展望があります。
この間、小栗(旬)さんとご飯を食べているときにそういう話になって。小栗さんや山田孝之さんはまさに同世代の仲間と好きなものをつくってきた人。そういう人との付き合い方に憧れがあって。同じ感性で物事を見られる同世代の仲間との出会いをこれからも探していきたいです。
『世界征服やめた』場面写真 ©︎『世界征服やめた』製作委員会