2024.10.07 18:00
2024.10.07 18:00
空監督には人に受け止める愛情があった
——作品資料に、キャストの方々のルーツが役と重なる部分があると後からわかったという監督のコメントがありました。栗原さん自身もユウタと近いと思われますか?
栗原 そうですね。僕はオーディションの時に、ざっくりとしたユウタのキャラクターが書いてあって、音央さんとお話した時に「100%僕だなって思いました」って言って(笑)。家庭環境や好きなもの、普段の居方も一緒で。僕のこと知ってるんじゃないかと感激でした。
——ユウタは歯を出してニカッと笑いながらも、何を考えてるかわからないちょっとした狂気の部分が印象的で。一方で、流れていく出来事に自分が対応できないことへの不安とか超然的な孤独感も感じる役柄でした。
栗原 笑う部分に関しては、実年齢と差があるので、幼さみたいな部分をある程度は考えて、思春期の尖った感じを意識しながらやっていました。でも結局、悪知恵があっても別に悪いと思っていないというか、考えていることはユウタの中ではとてもシンプルなんですよ。自分が楽しいからやりたいっていう。それこそ車立てるとかも、「今日放課後DJしようぜ」みたいな感覚と一緒なんです。それが高校生というか……何考えてるかわからないって伝わるんですよね。でもそれが伝わってるのは嬉しいです。
——日高さんはどうコウを自分の中に構築していきましたか?
日高 当時19歳で卒業して間もない時期だったので、年齢的に重なる部分もありましたし、僕も祖母に韓国の血が入っているので、それほど遠い話ではないなと思ってました。
人物像で言えば、ずっとバカやっていたけど、自分のアイデンティティだったりで将来の不安を感じてコウは選択をしていくんですけれど、自分もこの仕事をするにあたっていろんな選択をしてきたので、何かを選んで自分の未来に賭けなきゃいけないっていう気持ちは共通する部分も多かったなって。やっぱり役がすごくリアルだったので、自分だけじゃなく、こういう年頃の子たちは自然と選択して悩むことがあると思うので、そこはすごく共通していたと思いますね。
——まっすぐ進んでいくユウタに対してコウにはいろんな選択肢があって、狭間で揺れ動く演技に胸を締め付けられる思いでした。それは選択を経験されてたからこそわかる感覚だったんですね。
日高 そうですね。これを選んだらこれを失うみたいな気持ちが今までの人生でたくさんあって、そこをコウの心境と置き換えていたので演じやすかったと思います。でもそういう環境づくりも音央さんが設けてくださったので、ユウタに然り、やりやすさはあったと思います。
栗原 すごくやりやすかったです。
——空音央監督はどんな人でしたか?
栗原 そうですね……柔らかくて、僕らの人生の背景とかもお話させてもらって、それを踏まえた上で優しく包み込んでくれる方でした。僕だったらシングルマザーだったり、それこそミン役のシナも台湾人っていう背景があって、いろんな人種の人が出てる映画だからこそ、みんなとちゃんと繋げてくれる空気づくりがありがたかったし、そういう人だからこそ上手にできたのかなって思います。
日高 作品にかける思いを現場に入ってより一層僕らも感じました。一番印象的だったのは僕が貧乏ゆすりをしてペンが揺れるシーンがあるんですけれど、それを1mm単位で調整していたり。僕らがモデルからこの作品に出演したっていうのもあるんですけれど、いろんなアーティストや様々な分野でキャスティングをされていらっしゃったんので、作品に対する思いとか、自分が言える立場ではないですけれど芸術センスはものすごく感じました。完成した作品を拝見した時にもそう感じて、「あ、ここがこう繋がっていたんだ」とか、衝撃がありました。その傍ら実際に会うと柔らかくて。ニューヨークで育ってこられたっていうのもあるので、人を受け止める愛情みたいなものがありましたね。
——演者だけど、自分たちも作り手なんだという感覚もありましたか?
栗原 ありましたね。
日高 最初に「これはみんなで作り上げていくものなんだよ」って言ってくださって。みんな対等に関係性を持って、自分が思ったことを言って、意見を共有してずっとやっていました。
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