2024.09.30 19:00
2024.09.30 19:00
真冬という人物は二人で一緒に作ってきた
──今作『映画 ギヴン 海へ』では、そんな真冬が特に大きく成長していく姿が描かれます。今作の真冬を演じる上で特に意識したこと、大切にしたことはありますか?
矢野 今作はまさに真冬の成長と葛藤が多く描かれています。その葛藤をリアルに生み出すにはどうやったらいいのかと考えたときに、本気で音楽に向き合うこと、そして立夏を本気で愛すること、その2つが本物であればあるほど、リアルな葛藤につながっていくんじゃないかと思ったので、音楽を好きでいる気持ちと、立夏を好きでいる気持ちは本当に大切にしながらお芝居しました。
──温詞さんが『ギヴン』の主題歌・劇中歌を手がける中で大切にしていること、意識していることはどのようなことですか?
温詞 なるべくキャラクターになりきったり、なぞらえたりしないようにしています。それよりも自分の中にある思い出……一人の人間として生きてきて感じた痛みだったり記憶だったりをそのままぶつけるようにしていて。さっき矢野くんも言ったように、彼らは普通の人間なんですよね。そんな彼らがいろんな出会いを経験して、成長していくわけで。そういうリアルな部分を描きたいと思ったときに、僕は真冬でもないし、 柊でもない。だったら、彼らになりきるよりも、自分の人間としての記憶や感情を差し出したほうが共鳴できるんじゃないかという感覚があって。変に取り繕うのではなくて、一人の人間として曲を捧げるようにしていました。
矢野 今の話を聞いて、温詞くんはどんな人生を歩んできたんだろうと思いました。よくあんな歌詞とメロディを生み出せるなって。
温詞 いやいや。でも逆に僕の人生も、彼らに盛り上げてもらえている感じがあるんですよ。「自分の過去も、こういう言葉で落とし込んであげれば救われるんだ」と教えてもらうことがすごく多いし、『ギヴン』の楽曲じゃなかったら書かなかっただろうなということもたくさんある。僕は自分の曲を作るときに、センチミリメンタルという名前からも分かる通り精神性を歌うことが多くて、季節描写や風景描写をすることがあんまりない。でも『ギヴン』では「冬のはなし」とか「海へ」とか、そういう曲も作らせてもらって。景色や風景を切り口に自分の想いを表現するということは初めてだったので、そういう意味でもすごくいい経験をさせてもらったなと思います。
矢野 僕は真冬という人間とずっと向き合っていますが、どうしてもリンクしきれないところもあって。でも劇中歌で温詞くんのメロディや歌詞を聞いたときに「あ、真冬ってこういう気持ちだったんだ」って、そこで初めて気づかされるということが何度もあって。「こういう気持ちだからこの言葉が出るんだな」とか「こういうものをずっと抱えて生きてきたんだな」みたいな、真冬の気持ちに初めて気づけたり、真冬に対しての理解を深められたりということがたくさんあるんですよ。
──お二人で真冬を作ってきたんですね。
矢野 はい、僕はそう思っています。
温詞 そもそも『ギヴン』のアニメ化の話が上がって、真冬を誰にやってもらうかというオーディションから僕は関わらせてもらっているので、僕も、一緒に真冬という人物を作り上げてきた感覚はあるし、そうやって一緒に作ってきた真冬をたくさんの人に受け入れてもらえているということが嬉しいですね。
──『映画 ギヴン 海へ』の主題歌はセンチミリメンタルさんの「結言」です。
温詞 この「結言」という曲は、書き下ろしではなくて、9年前に書いた曲で。
矢野 すごい話ですよね。嘘なんじゃない?(笑)
温詞 嘘かもしれない(笑)。
矢野 それくらい親和性が高すぎる。
温詞 この曲は、できたときから、リリースはしていないもののライブでは演奏し続けてきた、僕の中で一番大事にしてきた曲だったんです。ただ、『ギヴン』の原作を追っていくなかで「『ギヴン』の最後にこの曲を使ってほしいかも」と思うようになってからは、ライブでやらないように封印していたんです。
矢野 へぇ〜!
温詞 で、いざ完結編の主題歌を、という話になったときに、もうこの曲以外考えられないと思ったので、「ぜひ使ってもらえないか」と提案させてもらいました。「結言」を作ったのは2015年なんですが、「まるつけ」(TVアニメ『ギヴン』のエンディング曲)を作ったのと同じ年で。「まるつけ」も書き下ろしじゃなくて、自分のために作った曲。2015年というのは、僕もライブハウスで音楽への不安だったり恐怖だったり、人を好きになることの素晴らしさだったり、いろいろなものを学ばせてもらった年だったんですよね。だからそういう自分の中のリアルな部分が『ギヴン』と共鳴したのかなと思います。さっき僕は、キャラクターに寄り添うんじゃなくて、自分のリアルを歌うようにしていると話しましたけど、書き下ろしじゃない曲が『ギヴン』の最後に寄り添えたということが、その答え合わせになっているような気がして。この曲を選んでもらえてよかったなという喜びがあります。
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