2024.09.11 17:30
SAMPHA ©︎ Daiki Miura
2024.09.11 17:30
個人的目玉アクトは音楽の化身だった
そのままマーキーへ留まり、EYEDRESS。音源で聴けるメロウでダークでちょっとゴスっぽさもある印象とは随分異なるフルバンドの編成。電子ドラムを組み込んだドラムキットから繰り出される帯域をハイに振り切ったキックやスネアがGLASS BEAMSの酩酊感を吹き飛ばしていく。ストリートファッションに身を包んだEYEDRESSは時折ギター(この真っ白なストラトは恐らくSupremeとFENDERのコラボモデルで生産本数何と全世界で推定100本という激レアもの。実物はおろかこれ使ってるだなんて相当キてます笑)をかき鳴らしつつ激しいアジテーションをフロアに向かって繰り返す。音源とは全く違ったノイズでローファイでロッキンなライブに意表を突かれつつ、これはこれで大いにアリだったし、並びに音源の印象通りの柔らかな編成でのライブも観てみたいと思った。機会や会場、イベント毎に使い分けているのかそれとも元来やんちゃなキャラクターなのか。有識者のご意見求む。
そのままマーキーへ留まって観たNONAMEもフルバンド編成であったのはとっても嬉しい誤算であった。てっきりDJとのミニマムな編成だとばかり思っていたのでセットチェンジの段階からワクワクが止まらない。昨年音楽愛好家たちの間で大きな話題となった『Sundial』も激しく愛聴していたしそのアーティスト性にも大いに興味があった。ホワイトなのかなとも思っていたがマーキーだったのも嬉しかったです。
詩人、活動家、思想家、図書館経営者……などなど、ラッパー以外にも多数の肩書を用いて常に社会に対して発信を続ける彼女、その楽曲群に込められた強烈な風刺や解放への願いなど全てを理解する事は言語的にも文化的にも極めて難しい話ではあるが(その辺りの解説はこちらのサイトが詳しい)、それと裏腹に今回の彼女のパフォーマンスはとてもカジュアルであり、何なら和やかですらあったように思う。ラストとしてプレイされた一際メロウな「Yesterday」に心地よく身体を揺らしつつ、それぞれが各々の、自分なりの解放についてステップを踏んでいけたら、なんてことを考えていた。そんな矢先に出演時間を勘違いしていたと慌てて戻るNONAME。やっぱり、本来はとってもカジュアルな人となりなのだろうか。時間いっぱいに「Song 31」と「Oblivion」をプレイしてくれた。
2日目の個人的な目玉のアクトはホワイトステージのSAMPHA。神々しさすら感じさせる珠玉のシルキーヴォイスを生で体験したかったのは勿論のこと、昨年リリースの6年振りの新作『LAHAI』が前作『Process』の美しさをそのままにバックトラックの情報量がめちゃくちゃにマシマシでとっっってもカオティックでアブストラクトながらもとっっっても均整の取れた内容(矛盾しているが本当にそうとしか形容しようがない)で生音と電子音の境界も曖昧で聴き分け不可能なんだけどでもとにかくすこぶる気持ちのいい作品であったためこれがライブでどうプレイされるのかを体験したかったのである。
中央上段のSAMPHAを取り囲む様にセッティングされた4人のサポートメンバーがつく定位置には夥しい量の機材が並べられ、皆担当楽器を目まぐるしくスイッチしながら演奏とコーラスワークまでをも完璧にこなすという異常な仕事量。どこまでが人力だったのかは知る由もないが(全部人力だったりして)その有機的なアンサンブルでアレンジされた楽曲群の素晴らしさたるや。ホワイトステージに詰めかけたオーディエンスは皆一様にステージで交わされる音の交配に圧倒させられているのが分かる。スゲエ。とにかくスゲエ。うるさかったり早かったりでスゲエのではなく鳴ってる音も各人の動きも美しすぎてスゲエ。曲によってはハンドマイクで踊りながら歌うSAMPHAのステップも然りで、全てが本当に美しいの一言。
極めつけは中盤の「Without」で、この曲のみSAMPHA含む5人全員がステージ上手にセッティングされた太鼓類の合奏と合唱のみで前半部を演奏、後半部はそれぞれの立ち位置に戻ってバンドによる演奏という流れをシームレスにやってのけるという荒業にしてスゴ業を披露。我々は「人類が音楽に成る様」即ち「音楽の化身」を観たと言ってもいい。
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