2024.01.31 18:00
2024.01.31 18:00
幸せとは何だろうか。暖房の効いた部屋で、おいしい料理を食べている傍ら、どこかで誰かが寒さに震え、飢えに苦しみながら生きている。幸せの花は、誰かの不幸せを養分にして咲いているのだ。
そんな容赦ない現実を突きつけてくるのが、現在公開中の映画『みなに幸あれ』だ。祖父母が暮らす田舎町に里帰りをした孫。一見すると、どこにでもある幸せな風景。だが、そこかしこに息をひそめる違和感。それがやがて恐怖となって観客をも飲み込むジャパニーズホラーの快作だ。
監督は、一般公募フィルムコンペティション「第1回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した下津優太。同賞受賞作を下津自ら長編映画に再構成。33歳で堂々の商業映画デビューを果たした。主人公である“孫”を演じるのは、大河ドラマ『どうする家康』やNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』など話題作が続く古川琴音。2人の若き才能が交錯したとき、日本映画に新たな歴史の1ページが刻まれる。
人は、想像している状態がいちばん怖い
──古川さんのキャスティングは、監督たってのご希望だそうですね。
下津 同世代の中でも抜きん出た演技力があって。お会いしたことはなかったんですけど、雰囲気的に「みなに幸あれ」と思っていそうだなと思って(笑)。そんな古川さんがどんどんダークサイドに堕ちていく姿はきっと美しいんじゃないかなと思い、まだ脚本の第一稿が出来上がったばかりの、キャスティングの話なんて全然出ていない中、古川さんがいいんじゃないですかねってプロデューサーに相談しました。
古川 ありがとうございます。私はこの台本を読み終わった後に何とも言えない気持ちになったんですね。確かにちゃんと怖いんだけど、ただ怖いだけではないというか。ありえない話ではあるけれど、でもありえないと言い切れるんだろうかって、ちょっと自分の中に残るような。どこか現実と地続きの部分がある気がして、ハッとさせられました。
──古川さんはホラーがお好きだそうで。
古川 好きという意識はあまりなかったんですけど、聞かれてみたらいろいろ観ていたなと思います。最近だと『呪詛』に『パラノーマル・アクティビティ』、『コンジアム』、あとは『呪怨』の1作目とか。お化け屋敷感覚で楽しめるエンターテインメント性の高いものは友達と一緒にあえて暗い時間に観たりしますけど、『呪詛』のような作品は1人でじっと観て、じんわり怖さを味わっています。
下津 『呪詛』最後まで観れたんですね。すごい。僕は怖すぎて途中で止めちゃいました(笑)。
──監督はもともとホラーにご興味があったわけではないと聞いています。今回の映画を撮るにあたって、やはり研究をされたのでしょうか。
下津 そうですね。影響を受けたのは、『聖なる鹿殺し』とかジョーダン・ピールやM・ナイト・シャマランあたりでしょうか。そこで知ったのはホラーというジャンルの表現の幅の広さ。いろんなテーマを乗っけられるところに可能性を感じて、どんどんハマっていきました。
──お2人が思う、いいホラーの条件とは?
古川 きっと人って全て見えて正解がわかるよりも、その前の想像している状態がいちばん怖いと思うんです。だから、人によって捉え方が違う余白のある作品が面白いホラーなんじゃないかなと、今回の作品をやってみて感じました。
下津 ジャンプスケア(観客を怖がらせるために急に大きな音を出したりすること)のようなアトラクションムービーって観ているときは怖いけど、その恐怖は尾を引くようなものではないと思うんですね。本当に恐ろしいのは、観終わった後の生活にも引きずるようなホラー。この映画も、そこを目指してつくりました。
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