5年ぶりに来日果たしたニューヨーク音楽シーンの象徴
INTERPOLのギタリスト・Daniel Kesslerが語る、20年以上不変のマインドと革新的最新作
2024.01.07 17:00
INTERPOL 2023年11月30日神田スクエアホール公演より
2024.01.07 17:00
全てを曝け出している姿に感化された
──M6の「Renegade Hearts」、M7の「Passenger」、M10の「Big Shot City」など、今までには見られない革新的なリズムパターンを持つ曲も多かった印象ですが、このリズム感はどういったセッションで作り上げたものですか?
面白いことに、「Renegade Hearts」と「Big Shot City」は実際に俺たちが同じ空間に一緒にいた時に作られた曲なんだ。アルバムの半分はデータ交換によって作られたんだけど、残りの半分は実際に一緒に作ることができた。レコーディングはもちろん同じ空間にいてやったけれど、作曲の時も一緒にいて曲を作っていったんだ。「Renegade Hearts」と「Big Shot City」は、3人が一緒に何度も何度も曲を演奏して、聴いて、肉付けしていくことができた曲なんだ。「Big Shot City」に関しては特にそれがカギになったと思う。ミニマルな音楽だけど、綿密で細かいピースが色々と入っているからね。
「Passenger」は野心的な曲で、俺が今回のアルバムのために作曲した最初の曲だったと思う。俺たちが作ってきた今までの音楽とは違う雰囲気がある。ポールにこの曲を聴かせた時に、彼にはヴィジョンがあったんだろう。彼の歌い方には脆弱性が感じられた。彼があんな風に自分の心を曝け出して歌うのを聴いたのは、あれが初めてだったと思う。すごくパーソナルでエモーショナルな感じがした。この曲の楽器の編成法も特有で、楽器がひそやかに導入されていく構成などは、俺たちが今まで作ってきた音楽とは違うものだった。リズムパターンに関しては(プロデューサーの)フラッドがキーパーソンとなって、あのように出来上がったんだ。曲の最初にドラムループを入れて、曲を展開させて行こうと言ったのはフラッドのアイデアだったし、俺はそのドラムループに合わせて自分のギターを演奏して、レコーディングしたんだ。そういうやり方は俺たちにとっては全く新しいやり方だったよ。だから「Passenger」が今の仕上がりになったのは、フラッドの貢献によるところが大きいと言えるね。
──今後の作品にはさらにこれらの楽曲をより推し進めた様な、革新的なリズムパターンを持った楽曲が制作される可能性もありそうですか?
可能性はあると思うよ。インターポールのドラマーであるサムは、メロディックなドラマーなんだ。もちろん技術も才能もあるけれど、彼の演奏にはメロディーや彼特有のパターンがあって、俺はそういうドラムパターンに心を動かされるし、彼のそういう演奏が大好きなんだ。彼はそういうアーティストであり、今後もドラマーとしてそのような進化をしていくと思う。だから今後も革新的なリズムパターンを生み出していってくれると思うよ。
──逆に「Greenwich」のリミックスにもとても驚かされました。今後こういったコラボ、もしくはエレクトロ方面に振り切ったインターポールの楽曲も聴いてみたいと思っています。その可能性についても現段階で言える事があれば教えて下さい。
今後もあるといいと俺も願っているよ。実を言うと、俺はダニエル・エイヴリーに、ここ10年くらい、インターポールのリミックスを頼んでいたんだ。だから今回、彼が引き受けてくれたことにすごく感激している。彼とは10年くらい前に知り合いになって、それ以来ずっとお願いしていたんだ。『El Pintor』の時も頼んだし、次のアルバムの時にも頼んだ。そしてようやく今回のアルバムでリミックスが実現した。素晴らしい出来栄えだったよ。彼のリミックスバージョンは、原曲とかけ離れていてテクノトラックに近い。「Greenwich」はスローテンポの曲なのに、BPMが速くなっていたからね。彼が、バックグラウンドのボーカルくらいしか原曲の要素が聴き取れない形にしたのは、とても芸術的だと思った。彼にはヴィジョンがあって、しっかりと時間をかけて、全く新しい作品を作り上げてくれた。俺はロック・ミュージックと同じくらい、エレクトロニック・ミュージックにも影響を受けているんだ。俺が最近聴いている音楽の大部分は、インストゥルメンタルやアンビエント・ミュージックなんだよ。それに、俺がやっているビッグ・ノーブルというサイド・プロジェクトも、アトモスフェリックというか、映画音楽に近いものなんだ。だから、そういうのは俺が大好きな音楽の一部でもある。だから今後もダニエル・エイヴリーのような、インターポールの音楽を全く新しい解釈で再構築してくれる人たちとコラボレートしていきたいと思っているよ。
──コロナ、ロックダウンを経てのワールドツアーとなりますが、再びバンド内で演奏しながら楽曲を作り上げる喜び、そしてそれを私たちオーディエンスの前でライブをする喜びについて教えて下さい。
(コロナ後に)初めてコンサートができたのは2022年の4月で、3年振りくらいだった。とても感動的だった。パフォーマーにとってもオーディエンスにとっても、完全にリセットされた状態だったからね。初めてステージに立った時は、オーディエンスとのつながりを改めて認識することができたし、再びオーディエンスのみんなと同じ空間を共有して、こういうことができることに対しても、みんなとつながれることにも感激した。その思いは相互的にあったと思う。オーディエンスもバンドに対して、そう思っていたのが感じられた。こんな体験は、世界で起きたことを乗り越えていなかったら、できていなかっただろう。当たり前だった現実が一度崩壊して、未来が何も保証されないと学んだ今、またコンサートができるということは素晴らしいことだった。その瞬間をただひたすら味わっていたよ。生きていることを実感できた瞬間だった。俺たちはそう感じたし、ライブ活動を再開した当初はポールもライブ中に時間を取って、オーディエンスに対して、再びステージに立って、みんなの前で演奏できることや、みんなと一緒に空間を共有できることに対して感謝の意を述べていたよ。
──華がある弾き方(ステージアクション)にも目が奪われるのですが、どんなギタリストに憧れていましたか?
俺はパンクロックが好きなキッズだったから、ティーンエイジャーや20代初期の頃に行っていたライブで心を動かされたのは、パフォーマーがその瞬間に没頭して、ステージに全てを曝け出している姿だった。その時の自分の感情よりも、音楽と一体となりオーディエンスと一体になっているのが、パフォーマーのあるべき姿だと思った。それは正直であり、真摯である。俺は今でもそういうことを大切にしている。俺の好きなバンドの1つにフガジと言うバンドがいるんだけど、ティーンエイジャーの頃、よく彼らのライブを観に行っていた。俺が今まで観てきたライブの中で最高のライブに入ると今でも思っているよ。彼らはステージに立ち、演奏をして、同時に高度なやり方で自分たちを曝け出している。そんな姿にすごく感化されて、俺は自分でも曲を書き始めたし、自分の作曲の仕方やインターポールというバンドを始めた理由も、フガジの影響によるところが大きい。だからコンサートをやるときはいつもそういうマインドで臨むようにしている。特に日本のような、自分が滅多に行けない場所でライブをする時はそうだね。オーディエンスがコンサートを楽しみたいのと同じくらい、俺もその場を楽しみたいし、その場で素晴らしい体験をしたい。だからそういう場においては、特別な空間が比較的簡単に、自然に醸成されるんだと思う。
──ライブではダニエルがギターリフを弾く度に大歓声でした。ご自身はリフメイカーであるという自覚はありますか?
ハハッ、そんな風に思ったことはないけれど、褒め言葉としていただいておくよ(笑)。俺は曲を書くのが好きなだけで、大部分の曲をギターを使って書いているだけだよ。俺は毎日ギターを弾くんだけど、毎朝、映画を観ながらギターを弾いているんだ。14歳の時に手に入れた古ぼけたギターで、音も単体ではあまり良くないギターを今でも使っているんだ。あまりいい音が出ないギターを使って、インターポールの曲になりそうなものを作っていくから、自分が本当に良いと思う音やアイデアじゃないと先に進めない。リフの場合でも、数ある音の中から自分の心に真に訴えかけてくるものを、見極めていっているんだ。自分の心が動かされるリフを見つけて、「よし、これならインターポールのための音楽にできるかもしれない」と言って、曲を作っていく。そういう過程があるから、聴き手に響くリフができるのかもしれないね。でも、リフメイカーと呼ばれるのは間違いなく嬉しいよ(笑)。
翻訳:青木絵美