2023.12.09 15:00
2023.12.09 15:00
夢がないのなら、僕が作りたい
──今、歌舞伎界の中でも愛之助さんの世代の方々が担っている部分がとても大きくなっているような気がします。そんな中で、愛之助さんご自身が感じている“課題感”のようなものはありますか?
そうですね。たとえば、歌舞伎俳優になるためには国立劇場の養成所に入るというのも1つの方法なのですが、今その養成所に若い人たちが応募してこない……という現状があります。
──国立劇場の養成所が全部門で応募数が減っており、2023年の応募に関しては文楽はゼロだった、というのがニュースになっていましたね。
やはり、夢を抱かないとそういうところに人は来ないわけです。大きすぎる夢かもしれないですけど、僕はいつか子供たちの「なりたい職業ナンバー5」とかに「歌舞伎俳優」が入ってほしい。そのくらいじゃないと盛り上がらないと思うんです。「自分もあんな風になりたい」と思ってもらえる存在となり、ルートを作ってあげる。それが大事なのでは、ということを最近すごく考えます。
──やはりそういう、歌舞伎界全体の若手の育成ということを考えると。
こういうことは、これまであまり話していないことですけど……僕は子役出身で、いわば外から入ってきた、歌舞伎界に生まれていない人間です。それなのにこんなにたくさん歌舞伎をできているのは、「松嶋屋」という家に入れていただいたからなんですよね。入れていただいた家の「血筋」がやはりある、ということを口にしてはいますけど、でも歌舞伎界では、初代からずっと血が続いている家はないわけです。みんなどこかで養子の方が入ったりしています。ただ、今は3代、4代と親子で続いている方たちが活躍しているので、知らない方は「歌舞伎というのは血が繋がってなくてはいけないのか」と思い込んでしまう。もちろんそういう、継承されていくものに重きを置くお客さんもいらっしゃいますし、とても大切です。でもそれだけでは歌舞伎界には「新しい担い手」が入ってこないんです。一方で宝塚歌劇団は狭き門なのに毎年受験者が絶えないですよね?
──確かにそうですね。
そこには、「入ったら自分もトップスターになれるのでは」という夢があるんです。今の歌舞伎界にそれがないのなら、僕が作りたいと。若い人たちが夢を持って入ってこれるルートを作ることが、歌舞伎の未来に繋がる……そう僕は思っています。来年の2月、大阪松竹座でやる公演は昼の部で『源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)』を通し上演します。普段あまり上演されないものも含めての通し上演で、僕は全てで主役を演じるので体力的には大変ですが、この公演ではこれまで名前のあるようなお役をあまり演じられなかった人たちをたくさん抜擢していく予定です。そういうことって大事だと思うんですよ。何か目を輝かせるようなものがなかったら、歌舞伎界は本当に終わってしまいます。
──そこまでの危機感を感じている、と。
僕がいくら頑張っても、周りの人がいなければお芝居はできません。だから、せめて座頭として自分でそういうことをできる時ぐらいはやろうかなと。これでお客が入らなければ「客入りが悪かった」と言われるのは自分なわけですが、でもそんなことを言って怖がっていたらだめですよね。このままでは歌舞伎が“終わって”しまう。でも今のままではそうなってしまうのなら、派手に頑張った方がいいなと思います。抜擢でも何でも、自分ができるうちにやっておこう、という。
──愛之助さんのように「部屋子」というルートもありますし、研修所もありますし、一般の若い男の子たちが舞台を見て「歌舞伎俳優になりたい」と思ってほしいですよね。
そうですね。見に来た人に「こういう“歌舞伎”を俺もできるんだ!」と思ってもらえる、そんな空間になればいいと思ってます。
──でもご自身でそういうことをやっていくのは、正直大変ではないですか?
いや全然。さっきもお話したように、役者は「頑張るだけ」なんです。