ターニングポイントと語る舞台『ある都市の死』で目指すもの
s**t kingzの2人が挑む新たな表現の形 “人”として今、芝居と向き合う意味とは
2023.12.01 17:00
2023.12.01 17:00
自分の“核”に近い表現ができるようになった
──『My friend Jekyll』を経たことで、ダンサーとしての活動に影響を与えた部分はありましたか?
持田 台詞がある作品を経験したことで、改めてダンスの凄さにも気づいたというのはあります。抽象的な表現でもダイレクトにお客さんに届いていく、心にすっと入り込めるのはダンスの面白さだなと。一方でお芝居、演劇はお客さんの脳にガツンと残り続ける感じなんですよ。その届け方の凄さも感じたし、両方やったからこその“気づき”は増えた気がしますね。ダンスの場合はみんなで振り付けを作って、それを練習して見せていくから自分の中で“作り込む”感覚があったんですけど、最近は作り込むダンスとはまた違う、もう少し自分の“核”に近いような表現もできるようになった気がしていて。それはお芝居をするようになってからだと思います。
小栗 『My friend Jekyll』を経験して、自分はこんなに分厚い殻を被って踊ってたんだ、ということに気付かされました。自分では結構さらけ出してるつもりだったんですけど、ダンスでは全然見せてなかったということを速攻で瀬戸山さんに見抜かれて。「もっと出せ、もっと出せ」と言われて「いや出してるんだけど?!」みたいな(笑)。でもこれはダンサーとしてのジャンル的なところもあるんですけど、自分はこれまで「カッコよくいる」というのがとにかく重要だったわけなんですよ。ダサいところは見せたくない、それが身体の芯まで染み付いていた。でも舞台での“演技”はそうではなくて、お客様が見たいのはそういう“これまでは見せたくなかった部分”でもあったりする。そのチャレンジが始まった感じですね。
持田 だから、『My friend Jekyll』の再演をしているときにはもう瀬戸山さんと「次もやりましょう」という話をしていて。公演が終わったらすぐ打ち合わせを始めて、「何をやろう」というところから何度も何度も打ち合わせを重ねて決まったのが今回の作品です。
小栗 そのプロセスの中で「果たして今どんなものをやりたいんだろう」というのをじっくり話せたのも良かったです。それこそ2人で飲みに行って話したり……結局そこで話したこととは違う形になっていたりはするんですけど、掘り下げたら掘り下げただけアイデアはあるし、まだまだチャレンジしたいことがあると気づくことができた。そして、それを実現できるかは行動次第なんだな、ということも痛感しましたね。
──やはり「チャレンジ」ということは意識されますか?
持田 僕たちにはs**t kingzという場所がありますから、もちろんs**t kingzでもチャレンジをし続けますし、その一方で個人としても何歳になってもチャレンジをし続ける、このことの大事さというのは実感しています。今のダンス界での自分達の立ち位置というのもありますけど、今回の作品でピアニストの小曽根真さんと一緒に作品を作らせていただくことで、それをさらに感じています。皆さんが御存知の通り、小曽根さんは世界的なジャズピアニストで、それこそいろんな現場で「今度小曽根さんと一緒に舞台をやるんです」と言ったらみんなが「ちょっと待って!?」という反応になる、そんな人。
でもそんな小曽根さんがなんでs**t kingzの2人と一緒に作品を作ってくれることになったかというと、僕たちの舞台を観に来てくれたとき「『この人たちと一緒にやったらどうなるか』が一切想像つかなかった」からだって言うんです。それって本当に凄いなと思うんですよ、あれだけ世界中を飛び回っていて、チャレンジなんてしなくても世界中から評価され続けるのに、そうじゃない。そう考えると、s**t kingzとして活動を始めて15年経って、日本武道館でワンマンをやって、そのタイミングでこの作品をやるということが自分にとって大きなターニングポイントになるんだろうな、という予感はしています。
小栗 何回かリハーサルを重ねてみて、もう小曽根さんそのものが「音楽」というか、小曽根さんそのものから音が出ているというか……凄いんですよ。ナチュラルに音楽が生まれて、その瞬間にその場の景色が変わって風景が見えてくる。自分で芝居しているというよりは、もう「小曽根さんによって芝居させられている」みたいな感覚になるくらい。
持田 小曽根さんのピアノを聴いて、人生で初めて“音が鳴った瞬間”に風景が見えたんですよ。こんなことがあるんだと。本当に凄いんです、小曽根さんのピアノの力が。だからこそ演じる方としては苦戦している部分もあるんですけど(笑)とにかく劇場でこの凄さを感じていただけたら。
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