2023.11.26 17:00
水瀬いのり(2023年10月28日 ぴあアリーナMM公演より)
2023.11.26 17:00
MCでは万感の思いでツアーを振り返る
あたたかく包み込むように「あの日の空へ」を歌い上げ前半のクライマックスを迎えると、恒例のブリッジムービーが放映される。インタビュー動画と様々なアートに挑戦する動画が交互に流れるという内容で、この公演で選ばれたアートは「ちぎり絵」。意気揚々と折り紙をちぎる水瀬は、いつの間にか「絵」を飛び越えて好物である寿司の「工作」を始める。決められた枠を無意識のうちに壊していく、彼女の抑えきれない感性もスクラップアートと言えるかもしれない。
すると紗幕に包まれたステージに映像が映し出され、その向こうにある上段ステージに菫色を基調としたミニスカートのドレスに身を包んだ水瀬が登場し、歌い出したのは「アイオライト」。ミュージックビデオでも印象的だった「手」と「額縁」と「洋館」をモチーフにした紗幕の映像とモニターの映像に水瀬が挟まれ、それぞれが連動して立体的な空間を作り出す。特に額縁でかたどった箱の中に水瀬が浮かぶように見えるシーンは、楽曲のミステリアスなムードをより引き立てていた。
紗幕が落ちるや否や、生演奏と電子音の交錯がフレッシュかつスリリングな「クータスタ」、広い空を彷彿とさせる優雅で力強い「HELLO HORIZON」とメッセージ性の強いエモーショナルな楽曲を立て続けに披露する。楽曲の持っているエネルギーを吸い込んで吐き出すような、深呼吸にも似た歌声が会場一帯を駆け抜けていった。
のちのMCによると「HELLO HORIZON」の歌詞のメッセージが今の自分の心に響きすぎて、同曲を歌唱中に泣きそうになってしまったとのことで、「震えている感じがマイクに乗ってしまったかもとおどおどしてしまった」と明かす。そして「ライブは自分の“今”の状態が如実に出る」「ひとつとして同じ公演はなかった」「自分の楽曲にたくさん背中を押されてきたし、助けてもらうことも多かった」と今回のツアーや自身の楽曲について感慨深げに振り返った。その直後の「約束のアステリズム」では観客の歌声に包まれながら幸福感に満ちた表情を浮かべ、音楽を通して思いを通じ合える喜びを噛み締める。言葉以上に彼女の真摯な気持ちが伝わってきたシーンだった。
「Million Futures」で一体感を高めた後、ネジを巻く音の後にオルゴールの音色が流れると、バンドインストの後にネクタイのついた花柄のワンピースに赤いジャケットを羽織った水瀬が登場。「Well Wishing Word」「While We Walk」「Winter Wonder Wander」とファンタジックな印象を与える“WWWシリーズ”の3曲を連続で披露する。絵本のページがめくれるような映像や、雪が降る演出も取り入れ、華やかに観客を楽曲の物語へといざなった。
チーム一丸となってよりよいライブができるようにアップデートを重ねられたことや、観客への感謝を語った水瀬は「最後の1曲、燃え尽きるぞ!という気持ちで自分を解放していただいて、それをわたしたちにぶつけてくれたらうれしいです」と語り、マイクスタンドを構えて「僕らは今」を歌い出した。歌詞の一言一言に感謝を込めながらのびのびと歌声を響かせる水瀬と、力いっぱいの愛情をクラップやシンガロングに込める観客たち。会場全員が心をひとつにして、美しいエンドロールを描いた。
アンコールではツアーTシャツとロングパンツ姿で登場し、“くらりちゃんフロート”に乗って「Shoo-Bee-Doo-Wap-Wap!」「Future Seeker」とポップナンバーを届ける。アリーナを1周してステージに戻った彼女は、自分らしくあることはいいことなのだろうかと悩みながらアーティスト活動を続けるなかで、今が最も等身大でいられていること、ファンの思いに身を預けてのびのびとライブができていることを語った。そして「初々しい頃のわたしが一生懸命歌っていた、1stライブのタイトルにもなった楽曲を、“皆さんに支えられながら歌えるあたたかい曲になったよ”という気持ちを込めて歌いたいと思います」と告げると、ラストは「Ready Steady Go!」。観客の歌声とともに、ポジティブなムードでこの日を締めくくった。
翌日のツアーファイナルのダブルアンコールで、彼女は自分を支えるチームの面々に感謝を伝える際、感情が高ぶり涙を見せたという。このツアーに魂を込めて真剣に取り組み、様々な思いを受け取ったがゆえに、こみ上げてくるものが多々あったのだろう。ぴあアリーナMMの1日目でも「1stライブはいっぱいいっぱいだった」「年齢を重ねることによって変化がある」と話していたが、今回のツアーで彼女が発信してきた楽曲群でもって新しいアートを作り出せたのは、彼女の視野が広がり、思慮が深まったからに他ならない。表現者として、ひとりの人間として、さらなる成長を見せる彼女の成長がとても眩しい一夜だった。
なお翌日のツアーファイナルの模様は12月3日(日)までオンラインで配信されており、チケットは12月3日(日)18時まで購入することができる。
セットリスト
Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART
2023.10.28 ぴあアリーナMM
-OPENING MOVIE-
M1 スクラップアート
M2 identity
M3 リトルシューゲイザー
-MC-
M4 僕らだけの鼓動
M5 クリスタライズ
-バンドメンバー紹介-
M6 アイマイモコ
M7 運命の赤い糸
-MC-
M8 くらりのうた
M9 あの日の空へ
-BRIDGE MOVIE-
M10 アイオライト
M11 クータスタ
M12 HELLO HORIZON
-MC-
M13 約束のアステリズム
M14 Million Futures
M15 Well Wishing Word
M16 While We Walk
M17 Winter Wonder Wader
-MC-
M18 僕らは今
アンコール
EN1 Shoo-Bee-Doo-Wap-Wap!
EN2 Future Seeker
-MC-
EN3 Ready Steady Go!