幾田りら、松下洸平、渋谷龍太らとの制作秘話を明かす
武部聡志が「ジブリをうたう」に込めた狙いと意義 今の時代に“歌い継がれるべき”名曲とは
2023.11.02 18:00
2023.11.02 18:00
「となりのトトロ」「もののけ姫」「テルーの唄」「時には昔の話を」などなど、ジブリ作品の音楽はその映画とともに幅広い世代の様々なタイミングで刻まれている。そんな国民的とも言える歌の数々のカバー作を武部聡志のプロデュースで完成したのが『スタジオジブリ トリビュートアルバム 「ジブリをうたう」』。参加アーティストもくるりの岸田繁、幾田りら、松下洸平、角野隼斗、SUPER BEAVERの渋谷龍太ら、ミュージシャンや俳優、インストゥメンタリストと多彩な顔ぶれだ。誰もが知る背景を持つ名曲のアレンジと、アーティストのディレクションを手掛けた武部氏はこの作品をどんな視点で編んでいったのか、そしてこの作品が今世に出る意味とは。
新しい解釈と思いを反映させたい
──まず音楽家としての武部さんにとってのジブリ作品の魅力を教えてください。
スタジオジブリの作品は、もちろん宮﨑駿さんのものが目立ったり語られたりすることが多いですけれど、それ以外にも何人もの素晴らしい監督さんが手掛けた映画がありますし、そのすべてにジブリカラーみたいなものがあると思うんですね。で、それって単純にファンタジーとかそういうものだけでなくて、そこには思想とか哲学的なメッセージみたいなものが込められていて。そのメッセージみたいなものが子供のときは見ても分からなかったのが、何回か繰り返し見てるうちに10代の時に観たのと20代に観たのとはまた違ったメッセージとして響いてくる、そんな奥深さがどの作品にもたくさんあるのだと思います。
──武部さんがプロデュースするスタジオジブリトリビュート作品は今回が初めてで、すごいお仕事ではありますね。
僕も今まで音楽家としてのキャリアを積み上げてきた中で、今自分がやるべきこととか、自分じゃなきゃやれないことというのを形にしたいなって思っている時期で。スタジオジブリさんとはご縁があって本編の映画の作品を二作、音楽を担当させていただいたつながりもあって。そのジブリの映画ではなく音楽というところに何か光を当てた作品を作りたいと前々から思ってたんですね。それでお付き合いが一番深い宮崎吾朗さんにその話をさせていただいたところ、吾郎さんも賛同してくださったのですが、できれば今までジブリの主題歌などにもエントリーできなかった若者やアーティストに参加して欲しいということと、新しい解釈、その時の楽曲をただそのままカバーするのではなくて今のアーティストがどういう思いで歌うかということを反映させたようなアルバムにして欲しいっていうことは言われました。
──参加アーティストとは共通言語があり、いい物ができるであろうという確信がおありだったと。
そうですね。曲は本当に国民的に知られている楽曲からちょっとマニアックな楽曲まで幅広くあるんですよね。だからアーティストによってどの楽曲を歌うかというのがスタートした時は楽しみでもあったし、予想外のものを選んでくれたアーティストもいたし、「この人にはやっぱりこれを歌ってもらいたいな」という僕の思いが伝わったものもあったし。そういった意味で一方的に僕が曲を選んで「これを歌ってください」でもないし、アーティストサイドとディスカッションしながら楽曲を決めていき、結果一番そのアーティストに似合う楽曲になったような気がします。
──各々の方が何を歌うのかが難しそうだなと思ったんです。皆さん歌いたい曲がかぶったりしそうですし。
途中ちょっとかぶりそうになったシーンもありました。でもすんなり決まった曲もありますし、特にくるりの岸田(繁)さんなんかは彼の方からもう「となりのトトロ」、第一声でそれが出てきて、「えっ?」とこちらは思ったのですが、岸田くんの中では勝算があったんでしょうね、きっと。見事に岸田さんが歌うトトロは新たなトトロとして、これをもうオープニングナンバーにしようとスタッフみんなが思えるような出来上がりになりましたよね。
──岸田さんはプロデューサーとしての武部さんの仕事を見たかったそうですね。
はい。一番最初にこのアルバムを作る時、僕はトータルのプロデューサーなのですが、アレンジとかそういうプロダクツはそれぞれのアーティストが作ったものを我々が受け取るということも出てくるのかな?と思ったのですが、皆さん僕がアレンジして実際僕と一緒にやりたいというふうに言ってくださったので、すべてのアーティストのレコーディングに関わることが結果的に出来ました。よりコミュニケーションも深まったし、コミュニケーションが作品にも反映できたと思うんですよね。
──映画のために作られた楽曲をカバーする難しさもあったんじゃないですか?
今回アレンジに取り掛かる時に、原曲のクオリティの高さ、「よくできてるなあ」というふうに感心することしきりだったんです。で、これを超えるみたいな意識でやっても勝てないなと思って。違う角度からこれを見て、歌うアーティストに寄っていくっていうような作り方をして行かないとダメだなあというふうに思って。対抗意識は途中から捨てました(笑)。
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