2023.08.22 12:00
2023.08.22 12:00
映画の街・尾道に佇む昔ながらの豆腐屋を舞台に、職人気質の父と頑固な娘の交流を描いた映画『高野豆腐店の春』。娘・春役を演じた麻生久美子にとって、久しぶりのメインキャストでの映画出演作となった。出演して改めて感じた「映画」への愛情、子育てや私生活とのバランスを取りながら演じる仕事を続けることについて……彼女が今、感じていることとは?
広島は自分にとって、特別な場所の1つ
──メインキャストでの映画へのご出演、久しぶりですよね?
はい、そうなんです!
──この作品に出演を決められた理由というのは?
脚本を読んで「こういう日本映画に出たかった」と思える、そんな作品がとうとう来たな、と。お話もシンプルですごく好きでしたし、お豆腐屋さんが舞台というのもいい。私自身、父とあまり一緒に暮らしたことがなかったので、父親との関係性を描く作品というのも惹かれる理由でした。藤竜也さんも素敵ですし(笑)。あと、広島の物語というのも決め手の1つでした。というのも、以前出演させていただいた『夕凪の街 桜の国』(2007年公開)という映画があり、私の中ではとても大切な作品なんです。広島の女の子を演じさせていただいたんですが、広島のこと、原爆のこと……いろいろなものをたくさん勉強もしたし、自分の中でも“残っている”ものが多くて。だからこそ、この『高野豆腐店の春』にも出たいな、と思ったんです。
──舞台は広島県尾道市ですが、方言がすごくリアルでびっくりしました!
ありがとうございます、方言指導の方のおかげです(笑)。でも、『夕凪の街 桜の国』のときの経験もあったので、方言に関してはそんなに苦労しなかったですね。なんだか好きなんですよ、広島弁。
──「春」というキャラクターはどのように作り上げて行かれましたか?
まず監督から言われたのは、春はすごく可愛らしい人で、周りのみんなから好かれるキャラクターだと。ただお父さんとも似ていて、頑固なところがあったりとか、芯がしっかりある明るい人なんだろうなとか……そういう感じで、少しずつ自分の中で作っていきました。でも、実際にお芝居をしてみると、藤さんのアドリブから生まれる空気感とか、呼吸とか、そういう親子2人の間にあるものを大切にしていったら自然と勝手に出てくるものもあったり。
──アドリブもあったんですか?
そうなんですよ。基本はほとんど台本通りですけど、藤さんのアイデアで歌が入ったり、かわいらしい振り付けもあったり(笑)。藤さん、本当にカッコいい方なんですよ。私も最初お会いしたときは「わっ、藤さんだ!」ってまず思ったくらい。でも、お芝居をしているとなんともチャーミングというか、カッコ良さの中にチャーミングさがあり……もう、惹かれるしか無いですよ(笑)。撮影は、本当に幸せな時間でしたね。
──藤さんとの共演シーンで意識していたことは?
できるだけ「何気ない会話」をしたいなと思い、撮影がない時間にもよく話しかけていましたね。親子の関係を作っていく上で何かしらヒントがあればなという思いもありましたし、話していくうちに見えてくるものもあるかなと。最終的には話をしなくても、2人で無言で待っている時間であっても変に気を使わない、そのくらいにまでなることができたので、「これなら大丈夫だな」と思うことができました。
──麻生さんが今作のように「出たい」と思う作品、惹かれる作品には、なにか傾向や条件のようなものはあったりするんですか?
私、いつも「人」なんですよ。その作品に関わる人を見て、この人たちと仕事をしたい、と思うのが理由になることが多いですね。それは共演者だったり、監督だったり、いろいろなんですけど……今回ご一緒した三原光尋監督も、本当に素敵な方で。あんなに腰の低い方がいるんだ!? と驚いたくらい、ちょっと映画監督には珍しいタイプといいますか(笑)。
──三原光尋監督、今作のクランクイン前にわざわざ手作りのお豆腐を作ってキャスト・スタッフ陣に振る舞ったというエピソードをお伺いしました。
しかも、それがすごく美味しくて! その美味しさを感じたときに、映画にかける思いがすごいんだなと思ったんですよ。あれでなおさらやる気が出たというか、監督の映画への愛情が凄いなと思いましたね。
──今作は、観た方にどんなことを感じていただきたいですか?
もちろんいろんな方に観ていただきたいんですけど、私ぐらいの年齢というか、自分の父親、母親が「おじいちゃん・おばあちゃん」と呼ばれるような年令になった世代の人が観ていただいたら、すごく心に響くことが多い作品だと思うんです。自身の経験とか、いろいろなものと重ね合わせる人が多いのでは……と思うんですよ。そういう意味で、持ち帰っていただけるものが多い作品になっていると思います。病気や老いのことは描かれてますけど、けして暗くなるようなお話ではない。すごく前向きな何かを感じていただけるのではないでしょうか。
次のページ