映画『炎上する君』で表現した“強要しない”メッセージ
「他者を肯定することは強くて難しい」うらじぬの×ファーストサマーウイカに問う現代の人間観
2023.08.12 17:00
2023.08.12 17:00
人間ならではの表現にずっと関わっていたい(うらじぬの)
──映画のキーワードでも「唯一無二」という言葉があります。お二人にとって「唯一無二」の自己表現や表現への渇望感はありますか?
うらじぬの 私は“舞台”っていう表現方法がまず唯一無二だと思っていて。底知れない面白さみたいなのがあって。初めましての方が大勢同じ場所に集まって、舞台の上で俳優さんも初めましての状態で、セットとか何もなくても「宇宙です。ここは」ってやった場合にそれを信じて観れる2時間ってすごいなと。それはお互いの信頼と想像力があればどこまででも行けるわけですよね。そのやり方ってずっと昔から脈々と続いてるし、人間ならではと言いますか。その表現方法に私はすごく惹かれて、ずっと関わっていたいって。その点について渇望しているのかもしれないです。
ウイカ 唯一無二の存在に憧れて変わり者になろうとした時期もありましたが、人生経験の中で何度も自分の凡人さを思い知りました。一度気がつくと、自らが唯一無二になろうとはせず、唯一無二の環境の身を置ける、唯一無二な存在と時間を共にすることを目指すようになりました。この世界は才能に溢れた魅力的な人ばかりだから、それと戦おうとすると潰される瞬間が幾度とあるけど、仲間になろうと思うと、どんどん前に進めるんです。逃げではなく共存を選んだ。それが私なりの唯一無二との向き合い方ですね。
──そういう局面にきた時に、本作のもう一つのキーワードである「君はなにも悪くない」が来るんだろうなと。昔の自分に対して「君はなにも悪くない」って今だから言えることはありますか?
うらじぬの いっぱいありますけどね! なんでそれで凹んでるんだろう?みたいなこととかあるけど……。私本当に役者になりたくて、でも親には「公務員になれ」ってずっと言われてきたんです。大阪芸術大学に行こう!ってなった時に反対されたので、内緒で大阪に行ったんですよ。それで怒られたり、みんなにも「なんで大阪行ったの?」って言わたり。進学校だったので、一人だけ貼り出された大学が大阪芸術大学で、ちょっと不安だったんですけど、その自分に「君はなにも悪くないよ」って言いたいですね。その選択が今の私を作ってくれてるし、すごくのびのび生活できてるよって言ってあげたいです。あの時頑張ってくれてありがとうって思ってます。
ウイカ 「君はなにも悪くない」と迷いなく言えるのって強さですよね。「悪かったごめん」と納得いってないけどとりあえず謝るほうが楽なこともあるし、なんなら私は性根が捻くれているので「みんな悪いで」といつも思っちゃう(笑)。自分だけが悪いんじゃないと思っている嫌な奴かもしれないです。他人に対して悪さの居所を探すより、守ったり許したり受け入れたりすることの方が何倍も強くて難しい。ナチュラルにできる人間でありたいです。
──最後に、映画をご覧になられる方々に一言ずつお願いします。
うらじぬの 予告編とか見ると激しめな印象を受けるカットがあるので構えちゃうかもしれないですが、ふらっと見に来ていただきたいです。すごい優しい作品のような気がしているので、いろんな方に観ていただいて、いろんな感想を持って出ていただけたらいいなと思ってます。寄り添える作品になれたらいいなと思ってます。
ウイカ 考えて欲しい、というより感じたり、自分の中に立ち返る瞬間があったらいいなと思います。全く響かない、理解できないと感じる人がいたとしても、「この映画に心動かされる人が世界にはいるんだよ」ということがその人にも届いたらいいなと思います。