日本作品にもオマージュを捧げた背景を語る
『マッド・ハイジ』ハートマン監督&クロプシュタイン監督が狂った快作に込めた熱い想い
2023.07.18 17:30
2023.07.18 17:30
R18の方が「観てみたい」と思わせられる
──お二人が本作で特に気に入っているシーンは?
クロプシュタイン 私の好きなシーン……1つだけ挙げるとすれば、映画の最後のダムのシーンですね。
ハートマン 私が撮影していて一番楽しかったのは、彼らがチーズ工場を脱出した時の爆発シーンだったと思います。あれほどの大爆発をこの目で見るのは非常に感慨深かったですね。他にも映画の中で満足しているのは、マイリ大統領が刑務所のクノール司令官を訪問するシーンがあります。そこに兵士が戻ってきて、ハイジに襲われたことを伝えるんです。あの場面のマイリ大統領役を演じたキャスパー・ヴァン・ディーンと、クノール司令官役のマックス・ルドリンガー、2人の俳優のエネルギーが非常に良く作用していました。
──最後のダムのシーンにかかっていた曲に「横浜」の歌詞があったり、刀が登場したり、映画の中には日本への意識も感じられたのですが、実際どうでしょう?
クロプシュタイン そうですね。ダムのシーンの曲「There is no snow in Yokohama」はスイスの有名なポップソングで、日本のリファレンスというより、ある意味差別的な歌詞だったので選びました。めちゃくちゃくだらない歌で、そこが気に入りました。あの博士が聞いていそうな音楽としてマッチしたんです。
他のシーンに関しては、日本を意識しているものがいくつかありますね。私たち2人はハードコアな映画オタクなので、様々な映画に対するオマージュを忍ばせたかったんです。例えば、『スターシップ・トルーパーズ』のリファレンスは些か明確すぎたかもしれません(笑)。自分に影響を与えた映画作品の中には日本映画もいくつかあります。例えば劇中でクララが着ていた刑務所の制服に書かれている番号「701」は、『女囚さそり』シリーズへのオマージュです。自分が観ていて好きな映画も、顔面に叩きつけてくるようなあからさまのリファレンスではなく、探したら見つかるくらいのものなので、そういうふうにしたかったんです。だから是非、劇中に隠されているディテールに注目してほしいです。
ハートマン 最初のティザー映像ではハイジがスイス・アーミーナイフを武器に持っていたんです。しかし、それを見たスイス・アーミーナイフの製造業者が「訴える」と脅してきて。そこで、スイス・アーミーナイフの代わりに“スイス・アーミー刀”を使わせることにしました(笑)。残念ながら、映画の中ではそこまで登場していないのですが……。当初はもっと“スイス・アーミー刀”を生かしたアクションシーンがある予定だったんです。そしてクララも、原作では別国からスイスに住むハイジを訪ねるキャラクターだったので、彼女を日本人の設定にすれば完璧だと思いました。
クロプシュタイン また、劇中で兵士が真っ二つに裂けるシーンは直接的に『殺し屋1』のオマージュです。
──そういったゴア描写もしっかりある本作は例に漏れずレーティングされましたが、年齢制限が設けられたからこそ障害にぶつかったことなどありますか?
ハートマン 幸いなことに、スイスではほとんどのプロデューサーが気にしていませんした。アメリカのようにプロデューサーがそれを良いとかダメとか言うのとは違いましたね。それでも、我々にとっては十分な収益を得るためにPG13である必要がありました。とは言え、スイスではレーティングの問題は話題になりませんでした。スイスではPG-12の映画のパッケージには緑のシール、R16には青いシール、R18+には赤いシールが貼られていて、若い頃にビデオ店に行ってはその“禁じられたテープ”にワクワクしていたんです。なので、実は密かに『マッド・ハイジ』がR16の青いスティッカーよりもかっこいい、R18の赤いスティッカーが貼られることを望んでいました(笑)。しかし、スイスの劇場上映に際してはR16でしたね。
確かドイツの配給も、R18にしてもらいたがっていました。結果的にR18になったのですが、特別な申請をしていなかったら恐らくドイツでもR16になっていたでしょうね。R18という方がマーケティング的に美味しい部分もあるんですよ。そっちの方が「ヤバそうな映画だ、観てみたい」って思わせることができるから。
──最後に、本作の制作を振り返ったお気持ちを聞かせてください。
クロプシュタイン 私にとっては、実際に映画を作る上での全工程が大切でした。冗談抜きに本作の制作は、これまでの人生の中で一番難しかったことでした。しかし、それと同時に人生で一番楽しかった時間でもあるんです。スタッフ全員と俳優陣が尽力していた。関係者全員にとって、それはお金や仕事以上の意味を持っていたんです。それをみんなと分かち合えたことが、最高の思い出でした。
ハートマン そうだね。それもスイスのすごいところで、例え自国の映画産業が非常に小さいものだとしても、興味深いプロジェクトがあれば人々は本当に盛り上がるんです。クルー全員が、私たちと同じ問題を抱えながらいつも退屈なスイス映画を作っていた。だからこそ、ようやくアクションのある映画を作られるとなって皆エキサイティングだったんですよ。それは普段のスイス映画の衣装部門にとってもそうでした。彼らの仕事は普段、平凡な服を数着見つけて終わってしまう。プロダクションデザインや、衣装デザインのように世界全体を構築する必要がありません。だから、関係者全員にとって本作を作るのは普段の映画作りより遥かに楽しかったわけです!
そして完成した映画を、多くの人が観てくれる。素晴らしいことですよ。もちろん、全てが完璧に、期待通りに作れたわけではありません。それでも、この作品にたくさんの情熱と愛が注がれていることは、映画を観たときに歴然としている。少なくとも、それだけでも伝われば最高です。