2023.07.04 18:00
最終的に幸福の総量で生きてる
──あきる野の実家を出て、何か変わったんですか? そういう考え方って。
小林 どうなんですかね。実家にいたときも誰とも喋ってなかったんで。父親とかと顔合わせてもお互い「うっす」みたいな。「うっす」の挨拶以外も喋った記憶ないです(笑)。大学でゼミで1回一緒になったことあるぐらいの感じで「おつかれさまです」みたいな。だからほぼ一人暮らしみたいなものだったんですけど、部屋から部屋に移動するときに怯えなくて済むようになったっていう感じはありますね。気まずさがなくなった。それは精神衛生上よくなったなと思いますね。
──つまり居心地がよくなったというか。
小林 そうですね、圧倒的に。ただ居心地がいいのって気をつけないといけないんで。こいつめっちゃいいやつだなっていう友達と喋ってるときとか、「自分にとってめっちゃいいってことは、めっちゃ気を遣われている可能性もあるな」って考えちゃうんですよね。なんですごく居心地いい相手ほど気を遣いますね。これも負のスパイラルなんですけど、頭の隅っこでいらんこと考えてます。
──だから「杮落し」や「四角」に歌われている危機感みたいなものって、どっちかというと居心地がいいがゆえに顕在化してくるというか。
小林 そうですね。
──その感じがすごく他の曲も含めてあるんですよね。いろいろ満たされてきているがゆえの不信感とか、「危ねえぞこれ」みたいな感覚っていうのが、そこはかとなくある。『光を投げていた』のときはもうちょっと外向きだった気がするんですよね。
小林 そうですね。『光を投げていた』とかはもうタイトルもそのまんまですけど、めっちゃ外のことを考えていたんで。「ウチとソト」っていうことをあの時期はすごく考えてました。清竜人さんが参加してくれたのもあって、そういう感じがより強くなっていたような気もしますけど。今回は一転、めっちゃ内側のことな感じがしますね、アルバム単位としては。「花も咲かない束の間に」を最後にしたのもたぶんそういう意識ですね。アルバムとして内向きすぎるから、外向きっぽい曲は入れとかないといけない、で、それは最後にしたほうがいいなという意識はあった気がしますね。
──逆に「繁茂」とかはすごくディープですよね。
小林 激暗い。今読み返しても「なんてネクラが書いているんだ、この曲は」って思いますよね(笑)。『山月記』をサンプリングしてるやつなんかネクラですからね。これは、曲を作るタームとして、激しい曲をギターでジャカジャカ弾いて作りたいという時期と、それが続いてきたからちょっと落ち着いた曲を書きたいという時期があったんですけど、その落ち着いた曲を書こうのタイミングで、リフのある曲を作りたいなって考え始めた記憶はありますね。
──歌詞だけ読むとすごく絶望を感じるというか、たとえば〈何も孕まない⾔葉ばかり⽣み出す事、/程無く消える事を悉く並べるご託は〉っていうところとか、「そこまで言っちゃうの?」みたいな感じもあったんですけど。
小林 でも、僕、落ち込んでるときとか、逆に楽しすぎるときとか、メンタル的にフラットじゃないときは曲書かないって決めてるので。たとえばめちゃくちゃ落ち込んでるときに書いた曲がめちゃよかったとしたら、俺はこの先落ち込み続けないといい曲書けないって思っちゃうし、それはよくないなって思うんですよね。同業者の先輩に「東京来ると毎回辛くて苦しいから東京に引っ越した」みたいな人もいたりするんですけど。
──それぐらい追い込んでると。
小林 そういう人もいますけど、僕は最終、幸福の総量で生きてるんで。いい曲を作るのが幸福1として、それ作るために落ち込まないといけないのがマイナス1なら結局ゼロになっちゃうから、それはよくないなって思うんで、なるべくフラットで冷静なときに書こうという意識はありますね。それでよく書けてるなと思いますけど、自分で(笑)。
──確かに曲を作る人ってどっちかというと感情の山と谷を何とかして捉えていくという感じのほうが多いかもしれないですね。
小林 僕はそれが嫌なんですよね。人がやってるのを見て「すげーな」とは思いますけど、それは最終的にしんどいことだろうって思っちゃうんで。それでめっちゃいい曲ができて、それがバカ売れすれば嬉しいっていうタイプでもないんで、僕は。
──今お話しいただいているのは小林私の美学だと思うんですよね。
小林 よく言えば美学ですよね。
──だから作り続けることができるっていうのもそうですし、曲で暗い明るいはあるけど、でも最終的には幸福のほうに向かってるっていう。
小林 そうですね。そこはかなりシビアに決めてるルールですね。ちゃんと生きてるんだから、生きてる以上、どっかしらに「生きるぞ」っていう気持ちがある。それは「死なないぞ」っていうだけかもしれないし、惰性でもあるのかもしれないですけど、生きて書いてるぶんまだマシかと思うんで、そこは入れ込まないと嘘だろうと思いますね。
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