2023.05.10 17:00
2023.05.10 17:00
けして、饒舌なタイプではない。しかし、こちらが投げかけた質問を一つひとつゆっくり確かめるように、「彼女自身の言葉」で返していく……その真摯な様子に、今多くの作品で彼女が活躍する理由がわかる気がした。
主演映画『あの娘は知らない』の公開や、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』への出演など、大きな作品が立て続いた2022年。そして2023年春は、同時期に2本のドラマへ出演。さまざまな作品づくりの現場を経た、俳優・福地桃子の“現在地”とは。
「緊張」への意識の変化
──現在、ドラマ『それってパクリじゃないですか?』が放送中、5月14日からはNHKプレミアムドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が始まります。この2本は撮影期間も同時期だったのですか?
そうですね。でも、どちらもある程度まとまった期間で参加する形になったので、それぞれに集中できてありがたかったです。どちらもテイストが違う作品というだけでなく、カメラの台数から監督が指示する撮り方や角度、どれ1つとっても全然違う。同じ「ドラマ」という言葉でくくられるものでもこんなに違うんだ、というのをそれぞれ実感できましたし、改めて俳優というのは“専門職”なんだな……と思わされた期間でした。あと、「真剣にものを作る」という作業には緊張が伴う、ということを実感していますね。
──ここ1〜2年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や主演映画など、大きなお仕事を立て続けに経験されていますが、やはり緊張はしますか?
そうですね。「場数だよ」とアドバイスをいただいたこともありますけど、「緊張」にもいろんな種類があるといいますか……緊張というものは、すべて悪いわけでもない、ということを最近感じ始めました。こうやってお話したりするのもそうなんですけど、人と関わるだけで少し緊張している部分はあって。多分そもそもが「緊張しい」なんですよ(笑)。でも最近、自分の性格が少しずつ理解できてきたというところもありますし、「緊張しないのも怖いな」と思うところもあり。たぶん、その緊張を楽しめるかどうかで、体の重い・軽いが変わってくるんですよね。体を固めるような緊張をしてしまうと、どうしても柔軟に動けなかったり、「頭で考えて体を動かす」みたいな作業になってしまうから、それは「向いていない緊張」。でも自分が関わるものへ「緊張感を持って接する」ことは必要ですし、それはなくしたくないなと思っています。
──『それってパクリじゃないですか?』では芳根京子さん演じる藤崎亜季の親友・根岸ゆみを演じられていますね。
このドラマのスタッフさんが、2年ほど前にご一緒したことのあるチームの皆さんなんです。他のキャストの方々もとても魅力的な役柄ばかりで、顔合わせをしたときからとても心強さを感じていて。私の役柄上、実際にたくさんの方とお芝居をするというシーンは無いんですけど、本読みのときの他のキャストの方の印象を自分の中で想像しながら台本を読むのがすごく楽しくて。「知的財産権」というものをテーマにしたドラマですから難しい言葉がたくさん出てくるんですが、それ以上にポップで面白いやり取りが多いので、「楽しみながら気がついたら知的財産のことがわかっている」というドラマになる気がします。それを目標に鋭意撮影を続けているという状況なので、これからも楽しみにしていただきたいですね。
──そして5月からは『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』も控えています。こちらはSNSで話題の作家・岸田奈美さんのエッセーを原作にしたもので、河合優実さん演じる主人公・岸本七実の友人「天ヶ瀬環」役を演じられています。環は七実とはクラスの一軍に入れない「三軍同士」という設定ですが。
環はドラマのオリジナルキャラクターなんですが、本当に魅力的な役です。七実と環という華やかではない2人が地味に会話をしている、そのやり取りがなんかじわじわ面白いという……現場でも本人たちは一生懸命なんだけど、なぜかモニターのところで笑いが起きているんですよ(笑)。そんなやりとりなので、こちらもぜひ楽しみにしていてください。
──こちらの現場はいかがでしたか?
大九明子監督率いるチームが、表現もアイデアもとても豊かで。もともと大九監督の作品は拝見していて、とても好きだったので楽しみにしていたんですけど、常に臨機応変というか……その日のその人のコンディションやその日のアイデア、それらが一つの物語になっていく。なんだか「生き物」みたいなんですよね。「決められたものじゃない面白さ」みたいなところがあるからこそ、みんな生き生きしている。こんな現場があるんだ! と思いました。私が演じる環というキャラクターも、どんなテンポで話すとか、どんなことを考えているかとかは「撮影初日に完成した」感がありました。
──といいますと?
衣装合わせをするときにスタッフ皆さんと顔合わせしご挨拶をするんですけど、バタバタって部屋に入って落ち着く暇もなく挨拶が始まったりするんです。そのときに私が持ってきた荷物を椅子に置いたら、物がうまくおさまらず床にワーっと落としてしまいまして。皆さんから注目されながら一生懸命荷物を集めたんですが、私としては慌てて急いでいたのですが急いでるように見えなかったのか、なんだか「自分の時間」のような空気になってしまい……大九さんに「今の数分間だけで、環ができると思います、安心しました」と言われました(笑)。そういう予期せぬ体験を参考にしたり、周りの皆さんの環像を聞いてみたりしながら、出来上がっていきました。
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