オープニングを飾る「Up Song」日本語字幕付き映像も公開
Black Country, New Roadが迎えた変転期の記録──ライブ映像作品『Live at Bush Hall』とは
2023.03.07 12:00
Photo by Holly Whitaker
2023.03.07 12:00
先日フル・ライブ映像作品『Live at Bush Hall』をYouTubeで公開し、映像化された9曲の新曲を収録したCDを日本限定でリリースすることを発表したブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。初来日となった昨年のフジロックでは「セットリストを全て新曲で構築」という大胆な姿勢で臨み、圧倒的演奏力と感情を揺さぶる歌声で感動的なセットを披露し、SNSでトレンド入りを果たすなど大きな反響を生んだUKの6人組バンドだ。
そんな彼らが4月に初単独ジャパンツアーを東京・名古屋・大阪で開催する。その予習を兼ねて、それ以上に待ちきれない気持ちで『Live at Bush Hall』の映像を鑑賞する人も多いと思うが、改めてこの映像作品の内容を、ロンドン在住の音楽ライター・坂本麻里子によるライブレポートにて紹介したい。
2022年2月に発表されたセカンド『Ants From Up There』で「ポスト・ロック新世代」のくびきを離れ新たな音世界に踏み入ったものの、全英チャート3位を記録した同作リリース直前にアイザック・ウッド(G/Vo)が脱退を発表。BC,NRにとって、パンデミックを越えても2022年は波乱に満ちた年だったわけだが、彼らはその約12ヵ月間の総括と言えるレジデンシー3公演を、西ロンドンの老舗ヴェニュー:ブッシュ・ホールで2日間にわたり開催した。「Black Country, New Road Theatre Season」と銘打たれたこの一連のショウ、本作はその中間に当たる2日目マチネ公演の模様となる。
演奏が始まる前にタイラー・ハイド(B/Vo)も「いつものショウとは違うけど、どうかお付き合いください」とMCしたように、かつて大衆的なダンス・ホールだったシャンデリアの下がる「えせクラシック調」の会場は、クリスマスっぽい赤系の照明にボーブルの飾り、ステージ前にはキャンドルの灯るテーブル席が7つ据えられその後ろに椅子席が並ぶディナー・ショー的な趣向。椅子やテーブルに置かれたプログラムには、「I Ain’t Alfredo No Ghosts」と題されたこのマチネ公演のあらすじとメンバーの顔写真付き配役表(笑)が記されている。ピザ屋と幽霊をめぐるシュールなお話らしく、ステージ背景にもピザ屋のネオン、家族経営のレストランっぽいポートレート群が飾られている。
イギリスのクリスマスの風物詩に、「パント」の名称で親しまれる歌あり踊りありのファミリー向け演芸(日本で言えばさしずめ新喜劇)があるのだが、時節柄もしかしたらお芝居なのか?と一瞬考えしまった……ほどだが、ベビー・グランドピアノを始めステージ上は所狭しと楽器や機材で埋められているのでもちろんそんなはずはない。約50分のショウは真剣勝負のストレートなパフォーマンスで、MCやジョークも最低限だった。
公演の概要に沿ってメンバーもそれぞれシェフの白ジャケット(ご丁寧にトマト・ソースのしみ付き)やウェイトレス/ウェイター風のコスチュームで決めていたとはいえ、ネットの目撃情報をチェックすると1回目の公演では農夫ルック、3回目の公演ではオフィスワーカー風とコスプレしていたらしく、毎回同じヴィジュアルじゃつまらないからテーマを決めよう、という彼ららしい茶目っ気の結果だったようだ(この回は序盤に宅配ピザのボックスが4箱登場し、テーブル席のお客に振る舞われる場面があり場内の笑いを誘っていた)。
「Up Song」から始まったセットは、やはり基本的に22年春以来彼らが構築し、ロードでテストし磨き続けてきた“ポスト・アイザック”な内容=フジ・ロックのステージと同じものだった。ヴォーカルをタイラー、ルイス・エヴァンス(Sax/Flute)、メイ・カーショウ(Piano/Accordion)の三者が分担し、それぞれの個性や持ち味がBC,NR Ver.2の多面性を形作っている。
次のページ