2023.02.04 17:00
2023.02.04 17:00
武器がないことが武器
──黒羽さんご自身には、演じる時にスイッチを入れるような感覚が?
舞台では明確なオンオフがあります。でも、こういった映像作品ではリアリティが大事なので、もっと器用に演じたいなと思うんですけど、なかなかそうはいかなくて……もっと勉強します(笑)。
──でも、難しいからこそ面白い?
うーん……面白いまでは行かなかったかな。難しいまま、どうしよう、どうやろう、みたいな。でも、それでも監督が現場でうまく「こっちだよー」と導いてくれたのでやりやすかったですし、最後まで演じ切ることができました。
──この作品は“他人を認める”というのが一つのキーワードになってくるかなと思いますが、黒羽さんはご自身と周囲を比較してしまうようなことはありますか?
この世界にいる人たちはみんなすごいと思うし、その才能に嫉妬もします。一緒に稽古していても「うわ、この人すげえな」と。下の世代の子たちもどんどん出てきてて、もう認めまくりですよね(笑)。“認める”というと偉そうな感じしますけど、全ての皆様にリスペクトを抱いてます。
──物語では、修一の嫉妬心についても描かれています。
僕の場合、修一と違ってその嫉妬心が「やってやるぞ」という原動力にうまく作用していると思います。嫉妬で荒れ狂ったりはしないですし(笑)。
──もともとプラス思考?
いや、どマイナス思考です。自分に自信がないし、何も長けているものがないし、特徴もないし、ということは常日頃から思っています。自分の武器をずっと探してはいるんですけど、武器がないのもそれはそれでありかな、とも思うようになりました。
──嫉妬心が原動力になっているとはいえ、辛いこともあると思います。それでも役者をやり続けてきた理由を教えてください。
これしかないから、ですかね。これしかができないっていうのもあるし、これしか興味がなかったっていうのもあります。僕の性格上、急に「俺は陶芸家になるんだ」と思い立ったら、陶芸家になっちゃうかもしれない。でも今は、この仕事に興味があってすごく楽しいし、充実感もあって。何度か「やめようかな」と思ったこともありますけど、“逃げ道”を作っておいたことで、メンタル的にすごく助かりました。「もし俳優としてダメでも、生きる道はまだあるさ」という精神でいると、ちょっと勇気が持てるんです。甘い考えかもしれないけど、少なからず僕はそれで救われたし、それなら失敗を恐れずにダメになるまでやってみようか、と。
──ゆとりを持って?
僕、「余裕」や「余白」という言葉がすごく好きなんです。余っている部分があればそれを使って遊べるけど、お腹がいっぱいだと見えるものも見えなくなってきちゃうと思うので。
──映画では、修一が仕事とプライベートの両方に余裕がなく、追い詰められていきます。
僕は、意識的にプライベートを大事にしているかもしれないです。仕事も大事だけど、プライベートがおろそかになると「なんで生きてんだろう」と思っちゃうんですよ。ずっと根詰めて仕事ばかりやってる時もあったけど、今はプライベートを充実させるために仕事をして、結果、仕事が充実してる感覚です。仕事とプライベートの比重は4:6くらいで、最終的には2:8くらいになるのが理想。それは無理だとわかっているし、わがままかもしれないけど、せっかく生きてるんだから「幸せだな」と思う時間を1秒でも多く体感したいじゃないですか。
──この映画を観たあとだと、その言葉がさらに響きますね。
あはは(笑)。でも、両方充実するのが一番ですよね。片方がダメだと、両崩れになりそうな気がしますから。
──俳優デビューから10年が経って、見える景色は変わりましたか?
たくさん後輩もできたし、大きく変わりました。それに僕はジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出身なんですけど、昨年、レジェンドでもある小池徹平さんと一緒に『るろうに剣心 京都編』という舞台をやる機会があったんです。当時、コンテストの最終選考会にもゲストとしていらっしゃっていて、みんなが「小池徹平さんみたいになりたい」と思いながら応募していて。そこから10年以上経って、初めてご一緒させてもらえた時には感慨深いものがありました。あの時“神”に見えた人と剣を交えて、一緒に歌ってるんだと思ったら、10年続けてよかったなって思いましたね。
──また10年先、黒羽さんのいらっしゃる場所が楽しみです。
もしかしたら、陶芸家になって壷を焼いてるかもしれないですけど(笑)。でもやっぱり、このお仕事を続けられていたらいいですね。