1992年の12月15日にリリースされたドクター・ドレーのソロデビューアルバム『The Chronic』。西海岸のGファンクサウンドを定義づけた作品であり、ヒップホップ史において最もインパクトがあったアルバムの一つであったと言っても過言ではない。『The Chronic』はその後の西海岸ヒップホップのサウンドの礎を作った作品であり、ヒップホップのサウンドスケープを変えた大ヒット作として知られている。
ドクター・ドレーは『The Chronic』にて、ヒップホップというジャンルのテンポ感をグッと下げることにより、さらに重いサウンドを追求。ジャズやソウルだけではなく、ジョージ・クリントン率いるパーラメント/ファンカデリックのサンプル、そしてオハイオ・プレイヤーズの「Funky Worm」に影響された高音シンセメロディでハードでフレッシュなヒップホップサウンドを作り出した。
また、ドクター・ドレーは直接サンプリングするだけではなく、楽器の生演奏を入れることにより、それまでのヒップホップにはなかったサウンドクオリティを作り上げたのだ。〈インタースコープ・レコード〉の創業者であり、ドクター・ドレーの長年のビジネスパートナーであるジミー・アイオヴィンは、初めて『The Chronic』を聞いたときにあまりにも洗練されたエンジニアリングに驚かされたと発言している。
ヒップホップドラムの定番であるHoney Drippers「Impeach The President」のドラムサンプルからイントロ「The Chronic Intro」がはじまり、2曲目「Fuck wit Dre Day」では、ファンカデリックの「(Not Just) Knee Deep」のベースラインがヘヴィさを演出している。1stシングル「Nuthin’ but a ‘G’ Thang」では、レオン・ヘイウッドの「I Wanna Do Something Freaky to You」をサンプリングし、メローな西海岸サウンドも確立した。また、デビューアルバムをリリースする前のスヌープ・ドッグ(スヌープ・ドギー・ドッグ)を多くの曲でフィーチャーし、同年にリリースされた「Deep Cover」に続き、今では世界的スーパースターであるスヌープ・ドッグを世に輩出したアルバムとしての功績も大きい。