本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第7回 ヒグチアイ(前編)
ヒグチアイと考えるアーティスト人生、一歩ではなく半歩先を行く難しさ
2022.12.27 12:00
2022.12.27 12:00
変化を恐れずにやっていても根本は曲がらない(本間)
本間 よく美術館に行くんですけど、美術も同じだと思うんです。変化していってるじゃないですか。基本にデッサンというものがあって、デッサンをしっかり持っている人のほうが、物事の見方や考え方を時代によって変えている。いい意味の変化であって、それについては理解されていくんですよね。俯瞰につながるかわからないんですけど、変化を恐れずにやっていても、根本はきっと曲がらない。
ヒグチ 私は長くやりたいとは思ってるんですけど、その半面40歳くらいでこの繰り返しを脱せたらいいなと思っている部分もあって。ときどき自分が競走馬みたいだなって思うこともあって(笑)。どうやってモチベーションを保ってるんですか?
本間 へとへとになって作るけど出来上がると楽しいんです。だからほんとに好きな人じゃないと残れないよっていうのは若手には言うんですよね。でも自分は「俺は早く引退して宮古島でカフェやりたいんだ」って言うようにしてるんですよ。
ヒグチ こうなったら引退しようみたいなのってあったんですか?
本間 60歳でやめようとかなんとなく思いながら、日々モチベーションに変えてるんです。宮古島おもしろいですよ。夢持ってやってる地方の若者たちを見てるとうらやましいなって思って。
ヒグチ 引退後のことを考えてるのがモチベーションになるっておもしろいです。
本間 ちょっとワクワクしますね。でも30代はそんなこと考えなかったです。ただ自分が古くなることが怖いなってずっと思ってて。新しい人と出会うことも大切だし、新しい音楽を常に聴くっていうのも大事だし。歌詞について言うと、80年代、90年代は古いとか新しいとか色々あったんですけど、今は全然そんなことないと思っていて、むしろ安定してきた。サウンドはいまガチャガチャじゃないですか。実を言うと僕はサビが同じ言葉を使うのが好きなんです。刷り込まれて覚えていく、最後の一行だけ変えてるとかね。
ヒグチ 私はサビを変えるのが美徳だと思っていたんですけど、ある日からそれをやめたんですよ。世の中の人は同じ言葉を何回も聞きたいんだっていうことに気づいて。
本間 やっぱり、いつまでも「Let It Be」なんですよ。ずっと言ってるからいやでも覚えるじゃないですか。
ヒグチ 歌いたくもなりますしね。
本間 「Hey Jude」だって最後は「Na」しかいってないし(笑)。
ヒグチ (笑)
本間 紐解いていくと、ヒット曲ってそういう作りが多い気がして。
ヒグチ いつからかサビの概念が変わったのかなっていう感じがします。
本間 そうですよね。メロディが細かくなっていったりとか。何年か前に若い人が聞かせてくれたんですけど、みんな同じようなつくりなんですよ、メロディーが。一人ずつに「なんでサビはこれなの?」って聞いたら、「専門学校でこう習ったんです」って。
ヒグチ へえー! 私も習ってみたい。
本間 入口の2小節はこのくらいの音数なのがコンペに通りやすいとか。ちょっと愕然として。
ヒグチ 私は人と違うことだけを意識してやり続けてここまで来たみたいなのはあるので、やっと隙間を見つけられたような気はしているんですけど。これでいいのかなって感じも……。
本間 全然それでいいと思いますよ。その中で、自分をどう変えていくかってことだと思うんですよね。
ヒグチ 最近音楽の消費が激しいじゃないですか。挑戦しても次はもう忘れられてるんじゃないかとか、そういう変化をし続けなきゃいけない感じになってますね。
本間 変化を恐れてしまうのもすごくわかるんです。本当はこんなリズムにしたくないとか、ストリングス入れたくないとか思ってても、望まれると入れないとなっていう。そこがシンガーソングライターの孤独なところですよね。
ヒグチ さっきのアンジェラ・アキさんの話じゃないですけど、彼女は前に立って「大丈夫だよ」って言ってくれるリーダー的な存在じゃないですか。私はサブリーダー的な、後ろで足を引きずって山を登ってる人やもう具合悪いんだけどって思ってる人たちと、一番最後の列で一緒に上まで登ろうタイプだと思ってて。
本間 そんなことないと思いますよ。めっちゃ引っ張ってますよ!歌詞の中で。
ヒグチ 本当ですか? よかった(笑)。