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INTERVIEW

辻村深月のベストセラー小説を待望の劇場アニメ化

物語の先に“救済”を──映画『かがみの孤城』原恵一監督が語る作品に込めた想い

2022.12.25 12:00

2022.12.25 12:00

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大きな音楽の力を感じた9分半

──その一人ひとりに集中したかったという意図をもう少し詳しくうかがってもいいですか。

監督がちゃんと各キャラクターをブレずに誘導できれば、別々に録ったものを合わせても絶対成立するものだと自信あったんです。声優さんのアフレコだと何人かで同時にやることが多いんですけど、今回は中学生や高校生の子もいれば、ベテランの声優さん、大人の俳優さんもいて。そのなかで同時に録ったとき、指示出ししきれないし、実際やっぱり慣れない子なんかはベテランの人がいて、自分がNG出したりするとちょっと焦ったりすると思うんです。迷惑をかけたりとか、ベテランに何度も相手してもらったりとか。そういう心配をさせたくなかった。今回は余裕をもって結構時間をとったので、本当に贅沢なアフレコができました。

『かがみの孤城』場面写真 ©2022「かがみの孤城」製作委員会

──そういった手法を試されたのは、今回が初めてですか?

シンエイ動画時代から、僕はずっとそういうことをやりたかったんですよ。アフレコというものに、物足りなさを感じていて。絵を作るのには膨大な時間がかかるわけです。だけど僕が『クレヨンしんちゃん』をやっていたころの話ですけど、アフレコを二日間で撮るんですよ。絵にかかっている時間と、音を録る時間の釣り合いが全然取れてないなと思っていて。『クレヨンしんちゃん』のレギュラーの人たちは長いことやっているから、キャラがブレるなんてことはないので、そんな大きな問題じゃないんですが。だけど、そうじゃないやり方をずっとやりたくて『河童のクゥと夏休み』(2007年公開)のときに子供の声は子役でやることを初めて実行して時間をかけて録りました。ただ、そのときは「しまった!」と思ったんですよ。子役を演出するのはこんなにも難しいのかと。

──そうだったんですね。

プロの声優さんとは共通言語があるわけじゃないですか。でも、子供には難しい感情の説明をしても伝わらないのがわかって。子供といっても子役経験がある子、演技経験がある子だから僕が説明をしたら「はい」とは言うんだけど、あきらかに声に自信がない。「あ、うまく伝わってないな」と。そのうちスタジオの中に入りマイクの横に立って何度も直してと、ものすごい時間がかかりましたね。僕自身が言い出したことだからあとに引けないし、「しまったな〜」「いまさら大人でやるとは言えないぞ」って。

あと、子供が多いからアフレコは土日だったんですよ。土日の朝から夜までスタジオに行って、中に入って階段を登ると、子供たちが大騒ぎしている声が聞こえてきて。なんで外だとそんなに元気がいいのに、中ではおとなしいのかって(笑)。

──ブースに入った途端に(笑)。

みんな同じ年頃だから楽しそうに騒いで、中には側転してる子とかいて(笑)。で、ブースに入るとシーンってなるという経験があってね。まあ、それもいい経験で結果的には僕も納得のいく演技をもらえたのでよかったんですけど。子役って、作品ごとにどんどん演技がうまくなっていってるんですよ。ちょっとびっくりする。事務所とか劇団さんが、アフレコの授業もちゃんとやってるんだなって。『河童のクゥと夏休み』のとき、例えば学校の教室の子どもたちのガヤとかね。声優さんにお願いすれば声優さんっぽいガヤにはなっちゃうんだけど、アドリブでなんだかんだやってくれるんです。当時は子役に「ガヤをやるから、いつもやってるような感じで」と言うと、何秒間かはみんな喋るんだけど、そのうちひとりが口を閉じ、もうひとり、そしてもうひとりと……。そのうちシーンって誰も何も言わなくなって(笑)。でも今は「ガヤをやって」と言うと、彼らはできちゃうんですよ。朝学校で授業が始まる前の感じでと言うと、「おはよう!」とか「昨日あれ観た?」って。

──達者になるんですね。すごい裏話が聞けました。

大変だけどおもしろいですよ、子役って。やっぱりうまくいったときの喜びが、大人を相手にしたときよりも大きいですし。今回なんかも當真さんがオールアップしたときに、僕がブースの中に入っていったら彼女が泣いててね。きっとホッとしたんだと思う。本作が彼女にとって、声でとはいえ主役なんでね。初主演なんです。初めてのアニメ、オールアップと聞いたときになんかこう込み上げてきたんでしょうね。それを見て僕は「ああ、こんな涙もう流せないやって」感動しましたもん。

──その感動は監督でしか味わえない喜び、快感だと思います。まさしく本作での最初から散りばめられていた結構な数の伏線をトントントンと気持ちよく回収していく終盤のシーンは、快感だったり、涙誘われる展開だったり、感情の振れ幅が巧みな演出だったなと思いました。

よくぞ言ってくれましたよ! もう語りたいです。あのシーンは9分半あるんですよ。富貴晴美さんにこの9分半を1曲で包んでほしいとオーダーしました。そしたらすごい曲を書いてくれました。毎回彼女にはやられたなって思うんですよ。どれだけ伸びしろがあるんだろうって。なかなか一緒に仕事して楽しい人っていないんですけど、富貴さんは間違いなく楽しいんですよ。本人は拍子抜けするぐらいあっけらかんとした子なんで、僕がどんなに大変な要求しても「わかりました! 頑張りまーす!」って。もちろん一発OKではなく何度かやり取りをして、きっと富貴さん的にもかなり苦しんだとは思うんですが。でも僕は富貴さんだからこそ無茶な注文もするし、富貴さんはそれを超えてやるぞと言う気持ちで作ってくれるから。

──音楽的にも仕掛けがあるんだろうなと思っていたら、やっぱりありましたか。

たぶん1回観ただけだと、そこに気がつかないと思うんです。でもね、あの音楽は転調はしてるけど、実は全部続いてるんですよ。だから9分半も緊張感が続く。あれは音楽の力がすごく大きいシーンです。だから、2回目以降は音楽にも注目して観てもらいたいですね。

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作品情報

かがみの孤城

©2022「かがみの孤城」製作委員会

©2022「かがみの孤城」製作委員会

かがみの孤城

12月23日(金)全国公開
企画・製作幹事:松竹、日本テレビ放送網
配給:松竹
制作:A-1 Pictures

公式サイトはこちら

スタッフ&キャスト

キャスト:當真あみ 北村匠海
吉柳咲良 板垣李光人 横溝菜帆・高山みなみ 梶 裕貴
矢島晶子・美山加恋 池端杏慈 吉村文香・藤森慎吾 滝沢カレン/麻生久美子
芦田愛菜/宮﨑あおい


原作:辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社刊)
監督:原恵一
脚本:丸尾みほ
キャラクターデザイン/総作画監督:佐々木啓悟
ビジュアルコンセプト/孤城デザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:富貴晴美

主題歌:優里「メリーゴーランド」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

1959年7月24日生まれ。
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)で大きな話題を集め、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(02)、『河童のクゥと夏休み』(07)で日本での数々の賞を受賞。また、アヌシー国際アニメーション映画祭で受賞した『カラフル』(10)、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(15)ほか、『バースデー・ワンダーランド』(19)など、海外でも高い評価を受ける日本を代表するアニメーション監督。2018年には芸術分野で大きな業績を残した人物に贈られる紫綬褒章を受章。アニメーション映画監督としては、高畑勲監督、大友克洋監督に次ぐ史上3人目の快挙を成し遂げ、国内外から新作が待ち望まれている。

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