“生きづらさ”に葛藤しながらも前に進もうとする主人公の物語
伊藤万理華が向き合う自分の価値観、玉田真也監督と映画『そばかす』撮影を振り返る
2022.12.15 18:00
2022.12.15 18:00
「愛する人と出会い、結婚して、家族を作ること」だけが幸せと言えるのだろうか?──そんな問いを投げかける映画『そばかす』が12月16日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開される。
<恋愛至上主義>が当たり前の世界で、他人に恋心を抱かないことで自らの居場所に葛藤しながらも、やがて自分の幸せを見出していく主人公・蘇畑佳純(そばた・かすみ)を演じるのは三浦透子。2021年公開『ドライブ・マイ・カー』でヒロインを務め、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、本作では単独初主演にして主題歌も担当している。そして監督には劇団「玉田企画」の作・演出を担う玉田真也が迎えられた。
また、佳純を取り巻くキャストも前田敦子、坂井真紀ら個性豊かな面々が勢揃い。その中で主人公の妹・篠原睦美役を演じたのが、近年は映画だけでなく連続ドラマ、舞台に数多く出演し活躍目まぐるしい伊藤万理華。本作で妊婦役に挑んだ彼女は、現代的で難しいテーマを扱うこの映画に何を思うのか。「多様性」が広く叫ばれる現代における自身の価値観にも触れてもらいつつ、玉田監督と共に本作の撮影、完成した映画を初めて観た時のことなどを振り返ってもらった。
もやもやしていたものが全部救われた(伊藤)
──まずは玉田監督に。本作は恋愛感情を持たずに生きることが自分とって自然であるという主人公を題材とした作品ですが、この着想はどこから生まれたんでしょうか?
玉田監督(以下、玉田) 企画と脚本を書いたアサダアツシさんが最初に思いついて。主人公像が決まっている中でお話をいただきました。
──監督はそういう題材の映画をいつか作るんだろうと思っていたのでしょうか?
玉田 全く思っていなくて。おそらく自分だったらこういう話を企画していないだろうなと思っていたものをオファーしていただいた形です。
──脚本も書かれる監督は、人の脚本に自分が色を付けていく作業というのはどういった感覚でしたか?
玉田 脚本家が完成させているものに対して僕が手を入れていったので、緊張しました。自分は脚本だけをやる場合が多く、逆の立場はやったことなくて。あまり触れちゃいけないのかなと思いつつも、自分の監督作だし、バランスを取りながらやる感じでしたね。
──その舞台裏の高度なセッションの裏話も面白そうですね。
伊藤万理華(以下、伊藤) セッション!(笑)
──伊藤さんは今回セクシャリティに触れる内容の映画に出演されるにあたって、いつかこういった題材の作品に出演されたい思いはありましたか?
伊藤 今回は「睦美」というストレートに女性として生きている役を演じたんですが、約1年前に男子高校生の役を演じたこともあったり、今まで(三浦透子が演じた)姉に近い役をやってきたなかで、そういうことと向き合う時間が多かったと思います。カテゴライズされることに対して、役を通してですが疑問に感じていて。今回役柄は違えど、この作品に出させていただけたことによって、もやもやしていたものが全部救われました。初号を見たときに、初めて自分が出た作品で泣きました。アセクシャルの方が主人公ではあるけど、そうではない自分さえもこんなに救われるんだって思いました。立場としては違う役ではあったけど、作品に浄化されました。
──周りを取り囲む人たちも、その人たちを心から思っているような感覚がありましたね。蘇畑家が素晴らしいセットだったのですが、どうやって見つけられたのでしょうか。
玉田 あきる野市にある、隣の家まで2、3分歩かないとないような場所にあるような居抜きで何にもない空き家でした。ロケハンで見つけました。
伊藤 何にもなかったんですか? 空き家がああなるの! すごい!
玉田 美術部の頑張りで、さも人が住んでいるかのようにやってもらいました。本当は座敷の部屋が二つ続いてて、それぞれ閉まりきっていたのですが、ひとつのリビングにしました。
──すごいですね。小道具も、美術部の方々が選んだり作ったり……?
玉田 そうですね。役者が手に触れる道具以外、その場にあるものは全部美術部が。
伊藤 居心地よかったですもん。住みたいぐらい。自然とみかんを食べていました(笑)。
──伊藤さんはあの家がもともと居抜きだと思えなかったんですね。
伊藤 知らなかったので今びっくりしました。睦美はあのシーンでしかいないので、そこで生きている姿を見せるしかなくて。よく「何を意識したんですか?」と聞かれるんですけど、自然とあの家にいました。スタッフ、キャストの皆さんの空気感が素敵だったのでそのままの姿で演じれました。
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