2022.11.26 17:00
中央:《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》2012年
2022.11.26 17:00
「夢/網膜」と「層」とスクラップブック
「網膜シリーズなんですけれど、ふと浮かぶんですよね。触媒となって見えてくるというか」
20代の頃から夢日記をつけてきたという大竹伸朗。それが影響してか、1988年の頃からは「網膜」シリーズとして頭の中に漠然と浮かぶイメージを作品にするようになっていき、長年にわたって制作されている。きっかけは、露光ミスのために捨てられたポラロイド写真を見て、頭の中のイメージを忠実に再現していたことを発見した時だった。それを傷つけたり引き伸ばしたりして、透明なプラスティック樹脂で封じ込めたのだ。
そんな大竹の中にある実態のない無意識的なイメージに対して、大竹の意識は圧倒的に物質や、物質が集まり積み重なることで生まれる密度に向かっている。
そしてスクラップブックの制作も、大竹のライフワークのひとつだ。初期のものはそこまで分厚くないが、年々層の厚みを増していき、71冊目となる最新の《スクラップブック #71/宇和島》は、2018年から2年半ほどかけて制作。その重さは17kgにも及ぶという。
「密度は理屈じゃないんです。スクラップブックが終わる時、なんかこう、来るんですよ。密度が。向こうから」
と大竹が語るように、そのあり得ないほどの物量感に、ただただ圧倒される。
物質に限らない「音」による層の表現
「1977年に初めてロンドンに行ったんですが、そこでラッセル・ミルズと出会いました」
ラッセル・ミルズは、ブライアン・イーノやナイン・インチ・ネイルズなど、数々の音楽アーティストのレコードカバーを制作してきたイギリス人アーティストだ。
大竹伸朗より3つ上のラッセルは大竹をかわいがり、日本に戻ってからも文通を通して、互いの考えを共有しあっていたという。その頃はラッセル自身が音に関わり出した頃で、
「その頃は絵を描くことと音は、同列に進行しているという状況に置かれたことがなかった」
という大竹にも、強い衝撃を与えた。
そして1980年6月、大竹は再びロンドンへ向かった。大竹は当時のことをこう振り返る。
「DOMEという音響ユニットのパフォーマンスを手伝ってくれってラッセルから言われて。現地の信頼するアーティストに声をかけられて、初めて自分の立ち位置が見えたっていうか、ものすごく嬉しかったのを覚えているし、音と絵が合体するものだということの認識が生まれた瞬間でもありました」
展示では、当時のライブを撮影した映像と音源も展示されており、映像の前に立つと指向性スピーカーからの流れるサウンドが楽しめる。また、自主制作してきたレコードやカセット、CD作品の個性的なジャケット並び、デザイナーとしての側面も見られるだろう。
まったく別物であっても、続けることで新たな層が生まれる
会見で最後に大竹はこう語った。
「自分の場合、ものづくりの最終判断は、自分に正直になることと勇気しかない。『こっちをやればウケるだろう』と考えると、大抵ダメになりますから。それがわかるまでに20年はかかったんですけど。絵に関しては人に意見を聞いていいことなんてないですからね。周りから『大竹は終わった』と言われることもあるけれど、それを無視してやり続ける。20年ぐらい経つと、また別の層を生み出しているんです」
膨大な作品をつくり続け、一見脈絡のない作品をつくっているように見えても、振り返ると「層」や「密度」そして「コラージュ」の要素が存在している。その積み重ねがはらむ強い気配に、ぜひ圧倒されてほしい。