2022.11.23 17:00
2022.11.23 17:00
ゼロだからこそ掴めるものがある
──「アビス」は「ZERO」とも通ずる世界観で、シリアスでありながらユーモアも感じられました。どうやらこの曲は「ちょっと数日籠って連絡つかなくなるけど気にしないでください」という連絡を入れて制作したというエピソードがあるそうですね。
曲作りの最中は「探さないでください」的な感じで音信不通になっちゃうことが多いんです。なのに「アビス」の歌詞には《探して 探して この街の中》って書いてるんですけどね(笑)。ちゃんと深淵を見せようと思って向き合って書いていた曲です。そうするとおのずと、自分の奥深くにある「叫び」みたいなものが曲に出てくるんだろうなと思います。
──「アビス」の後に「ZERO」が来るところが、より意思表示の意味を強めていると思います。「ZERO」はTVアニメ『惑星のさみだれ』製作サイドより「OP曲のようなED曲を」というオーダーをもらったそうですが、『ZERO』というアルバムにおいてもそのような位置づけで。アニメの世界とSanoさんの世界が同時に走っているような曲ではないでしょうか。
まさにですね。『惑星のさみだれ』には少年時代の葛藤が描かれていて、僕もいまだにずっと少年というか、大人になりきれない子どもなんです。今も世の中とうまく溶け合わないような感覚があって……。だから僕の曲は全部、疎外感の中から生まれていると思うんです。
──その象徴が、Sano ibukiとは切っても切れない「ひとり」という言葉ですよね。
「ひとり」はSano ibukiが大きく掲げるテーマですね。バンドを組みたかったけど組めなかったゆえにひとりで歌い始めた。それで人生が動き出したということは、裏を返すと「自分はずっとひとりなんだろうな」ってことだと思うんです(笑)。それに対して「それでもいいのかもしれない」「それじゃだめなのかもしれない」「これでいいんだろうか?」と悩み続けるのが僕の命題なのかな、と思いながら生きているところはあって。「ZERO」にはそれが色濃く出てるかなと思います。
──その「ひとり」に対する哲学が、《僕はZEROからHEROになるのさ》という決意を生んだところもあるのでしょうか。
ヒーローソングを作るのは初めてだったんですけど、気持ちが少年のままなのでヒーローになりたいという心はやっぱりあるんですよね。誰かを救える何かになりたい、誰かとは違う特別になりたい──ゼロという「何もないがある人」だからこそ掴めるものがあるんじゃないかと僕は思っていて。それが「HERO」という言葉に結びついたんだと思います。僕は直接的な言葉を使うのを避ける傾向があるんですけど、「ZERO」でそこをちゃんと言い切る覚悟を持てたからこそ、このアルバムが完成させられたのかなと思いますね。「決戦前夜」みたいな少年性が表に出てきている曲を書けたことも、原点回帰なのかなと思います。
──これまでの歴史を複合させたような作品をライブで演奏したら、どんな感覚になるのかも楽しみですね。2023年1月の東京キネマ倶楽部で開催される「Sano ibuki Special Live “ONE“」は、約3年2ヵ月ぶりのワンマンライブ。冒頭で話していただいた、2020年2月に開催された大阪公演以来、ワンマンをなさっていないということですよね。
そうですね。デビューしてすぐにコロナ禍に入ってしまったので、ライブを経て曲を書くということをほぼしていないんですよね。あの日できなかった東京公演をやりたいという意味も含めて、ゼロをイチにするためにこのライブタイトルをつけたんです。このワンマンを終えた後に、どんな曲を作るのかすごく楽しみですね。
──この3年2ヵ月でフルアルバムとミニアルバムを出しているから、セットリストもかなり変わってくるでしょうし。
そうなんですよ。今からドキドキしていますし、やりたいこともてんこもり状態なので準備が大変でチームみんなてんやわんやです(笑)。『EMBLEM』から積み重ねてきた4年間を振り返っていただけるような、聴いてくださった方々の思い出を想起させるようなライブになると思います。いろんな人にとっての“ONE”になれる1日にできたらと思っていますね。